ェいいともわるいともいうひまを与えずがむしゃらに結婚してしまった。伸子のときには結婚式もなければ、披露らしいものもなかった。それらのことで、あれほど親としての社会的な体面を傷つけられ、自尊心をそこなわれた多計代は、きっと和一郎の婚礼は佐々家の大事なのだからと言ってさぞ盛大にやることだろうと伸子は想像した。数年前行われた小枝の姉の結婚式も、華美だった。実業家である小枝の父親も派手にすべきときには思いきって派手にする性格と手段をもつひとだった。さぞや賑やかなことだろう。伸子が外国へ出発するというだけでさえ人のゆきかいで廊下が鳴るようだった情景を思って、伸子は枕の上でほほえんだ。佐々のうちとしても保がいなくなってお嫁さんというものをもらう息子は和一郎一人になってしまったのだから、萌黄のユタンのかかった箪笥でも長持でもドシドシかつぎこめばいい。なかばユーモラスな感情で伸子は親たちの派手ごのみを肯定した。
和一郎と小枝が結婚するようになったということは、伸子としてとうとう、と思えることだった。和一郎はもう何年も従妹の小枝がすきで、伸子がソヴェトへ立って来る前の日の晩、伸子をわざわざ暗い応接間へひっぱりこんで、彼の気持を多計代につたえておいてほしいと言った。小枝は、華麗な少女で、樹のぼりが上手という風な自分の知らない活気と生の衝動にみたされている娘だった。多計代は、和一郎が従妹にあたる小枝のところへ幾日も泊っていたりすることについては、和一郎を信用して[#「和一郎を信用して」に傍点]黙認して来ているのに、伸子が彼の決心を伝えたとき、そんなことを言っていたかい? とそのひとことに明瞭な否認をこめて伸子を見た。そりゃ小枝ちゃんはわるい子じゃないだろうけれど、和一郎のおくさんになんて! あのひとは、夫を扶けて発展させるようなたちの女じゃあないよ。あんまり享楽的だよ。多計代は小枝についてはっきり自分の批評をもっていた。伸子は、明日に迫った出立のために気ぜわしくて、細かく話をしていられず、きいてもいられなかった。彼女は、短い時間と言葉のうちに多計代を説得しようとするように母の手を押え、でもねお母様、と言った。和一郎さんは決心をかえないことよ。そうはっきり言ったわ。だから、わたしに、お話しておいてくれとたのんだんでしょう。伸子は、そのとき、母の白くてにおいのいい顔を見ているうちにいつもながらわが息子尊しが不快になって、お母様もよくお考えになった方がいいわよと言ったのを今も忘れなかった。和一郎さんがあんなにずるずる飯倉の家へとまりこんだりしているのは放っておいて、あげくに、小枝ちゃんが和一郎を扶けて立身させる女でないなんていうの、虫がよすぎるわよ。小枝ちゃんは和一郎さんがよくよくきらいでないなら好きになるしかしようがないようになってるのに。伸子にそうつっこんで言われると多計代は、また例のお前がはじまった! と伸子の手から自分の手をひっこめた。お前は姉さんのくせに――お前はしたいようにやってみるのもいいだろうが、和一郎まで煽動しておくれでないよ。そう云う多計代の二つの眼に伸子の言葉をはねかえす光が閃いた。伸子は、じゃまあいいようになさるといい。とそこを立ちかけた。でも、わたしがあのひとにたのまれて、こういうことを言ったことだけは覚えていて下さる方がいいことよ。
あのいきさつ――多計代の小枝に対する不満は、どう扱ったのだろう。伸子は、ベッドのかけものの上へ出している両手の間で電報をひろげたり畳んだりしながら思いめぐらした。和一郎も小枝もがんばりとおしたと見える。
伸子がソヴェトへ立つ前に一家揃ってとった写真の中には、制服をきちんと着て、ぽってりとした顔にまったく表情の動きのない保の姿がうつっており、前の例に、おかっぱで太い脚をして、はにかみと強情と半ばした口もとで小さいつや子もうつっていた。そのつや子までついてはるばるやって来る。――
この思いたちを、できるだけ豊富な収穫の多いものにし、愉快なものにするために、伸子は自分ものり出そうという気になった。自分の積極性をその計画に綯い合わして行こうと思いはじめた。和一郎と小枝にとって、ましてつや子にとってそういう旅行をする機会がまたいつあろうとも思われなかった。若い連中への思いやりとはおのずからちがったニュアンスで、父と母とがその立場や境遇にふさわしくこの旅をたのしむことを想像すれば、それはやはり伸子にやさしい思いを抱かせるのだった。できるだけみんなを満足させ、その上でみんなはシベリアをとおってなり、アメリカをぬけてなり、都合のいいように帰ればいい。そして自分はまたモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ戻ってくればそれでいいのだ。自分はうちのものみんなと、どうしても帰らないと気分がきまればきまるほ
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