潤A1−7−82]ールの一軒の宝石商のショウ・ウィンドウの前にたたずんで、長いこと、その中に飾ってある一つの腕環を見ていた。堂々としたその宝石店のショウ・ウィンドウは高い石の腰羽目の奥にきりこまれていて、瀟洒な銀灰色の絹びろうどで覆われた窓のゆかが背の低い伸子の視線と平らな高さにあった。六月のブル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ールの光線が日除けでやわらげられている窓の中で、若葉の緑や建物の黒く滑らかな石の肌と絹びろうどの銀灰色とはそれだけで一つの階調をつくっている。そのなかにたった一つ、見ていればいるほどデザインが面白くなって来るサファイア色の透明な石にダイアモンドをあしらった腕環が飾られているのだった。
 ブル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ールに面して大きな入口のあるこの宝石商の黒く滑らかな石の外壁には、適宜な間隔をおいて三つ最新式な飾窓があって、いつも高価そうな品が飾られていた。通りすがりに一瞥していただけで、伸子たちがその前に立ちどまったのは、その日がはじめてだった。伸子は、ぶらぶら歩いて来た足を、
「こう威風堂々としていると、まがいものでも十分圧しがきくわね」
と、笑ってわるくちを云いながら、ふと止って、腕環を眺めはじめたのだった。
 その年、女の服装は頭から爪先にまでなだらかに流れる線を主張した流行で、主だつ色も柔らかな肌色、しゃれた朽葉色を中心としていた。その代り、その色のきりかえや女の身につける飾りの小物類は、アクセントの強い直線の図案が多かった。その飾窓にある腕環は、そういうモードの極限をとらえていて、伸子に名のしれないそのサファイア色のどっしりした長方形の石は鋭い十五面体に截られ、質のいい小粒なダイアモンドにつながれている。女の体にそって柔らかく流れおちる線を、快い抵抗でうけとめるように、その年の女の手套《てぶくろ》は、西洋剣術《フェンシング》用の手套のように高く、さき開きになった装飾のふちをもっていた。この腕環も、柔らかく胸から背へとむき出された女の体の線を、しなやかな手頸で重く強烈にひきしめてアクセントづけようというのだろう。贅沢に暮す女の手頸のほそさ、白さ、しなやかさを逆に強調するように、サファイア色の腕環はほとんど過分な重みをもち、渋さをもち、同時に豪華さをもっている。
 しばらく眺めていて伸子が、はげしく興味をとらえられたのは、女の肉体とかその線とかいうものに対するパリのデザイナーの感覚だった。こういうデザインをするのは女ではない。伸子は感興をつかまれてそう考えた。男が、その感覚の上ではっきり女というものを肉体と精神で意識して、その女を活かし、発揮させ、変化あらしめ、より女として表現するために、こういう腕環のような女の装身具は、重々しく、つよく、むしろ女の外から、女の柔かさをひきたてるものとしてつくっているのを、面白く思った。パリの婦人用家具が女の体の曲線にそっていて、装身具の小物類は女の曲線へのアクセントとして対照的な角度から、美しさをひきたてるように考えられている。日本の有名な真珠商のデザインが、日本の女の服装との関係もあってだろうが、いつも女の線にくっついていて、頸飾りや指環などのようなものには、線のしまりのなさと調子の鈍さが目立っていた。フランス人の趣味と日本人の趣味とは似ていると云いならわされていることへの不承知が、また伸子の心に湧きおこった。そこには、女として、日本の男への不承知の感情もひそんでいるのだったけれども、何と妙だろう――伸子は、銀灰色の絹びろうどのさざ波の上に耀《かが》やいている一個の腕環を見つめながら思った。フランスでは女がこんなに美しかるべき生物として理解されていると云っても、それは幾百万もいるフランスのどの女のことなのだろうと。
 黒人の舞姫のジョセフィン・ベイカアは素晴らしい裸で、そのはだかの輝きをより甘美にするために葡萄の房の中に体をひたすそうだが、彼女にそうさせているのは香水王のコティであり、コティの財閥はフランスのファシストの親分の一人だった。パリへ来て間もないとき伸子たちはメトロのなかで、買物籠を腕に下げた黒人女とパリ女とが喧嘩をはじめて、パリの女がいきなり平手で黒人の女の頬をぶったのを目撃した。走っている地下鉄《メトロ》のよごれた車内をてらすレモン色の昼間の電燈と動揺の中で、水色のエプロンをかけた黒人の女の艷のぬけた煤色の顔は、白眼を血走らせて怒った。紫っぽい灰色の厚い唇が、黒人のフランス語をほとばしらせた。誰がその女の喧嘩をまじめにあいてにしていたろう。次の駅でドアがあいたとき、腕組みをしてドアのわきに立って喧嘩を見ていたソフトの若い男が、伸子にわからない言葉を大きい声で早口に云いながら。
「そら《ヴォア・ラ》!」
 黒人の女を、開いたメト
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