Iに多計代をたすける能力をもった、語学ができてしっかりした女のひとを一人つれて来るべきだった。そのひとと、泰造の助手となれる若い男のひととを。――どうせ、多計代を中心にしての計画ならば、どうしてみんなはそういう風に、整理された旅行の方法を考えつかなかったのかしら。
「あなたがた、やっぱり一緒に来てみたかった?」
「冗談じゃないよ、姉さん!」
心外この上ないという、にらむような表情で和一郎が伸子の言葉を否定した。
「僕たちは、来たいどころか、来ないですましたいと思って、いくたびことわったかしれやしない。使っていい金があるんなら、もうすこしあとんなってから、僕たち二人でちゃんと計画して来る方が、僕のためにもなるんだからって。――そりゃ、全くそうなのさ。小枝はおふくろの小間使い。僕は小使いなんて、志願するもんか。無理矢理さ。ついて来ればいいんだっていうから、ついて来ているだけだ」
和一郎はそれだけをいうにも、見かけは柔和らしい面長の顔に、ふてくされてけわしくなっている神経の表情を浮ばせた。マルセーユ以来、和一郎自身は、そういう感情を両親に対してあらわに行動した。そのために小枝の立場は、いつも双方への心配にみちて、板ばさみにされているのだった。
モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で和一郎と小枝の結婚について多計代からの知らせをうけとったとき、伸子には、二人の結婚が多計代に承諾されたということさえ意外のようだった。和一郎にたのまれてモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ立って来る前の晩、人気ない洋風客間で彼が小枝と結婚する決心でいるということを立ち話したとき、多計代は何と云ったろう。多計代は、娘の伸子の顔にさぐるような視線をすえて、そんなこと言っていたかい? とそのひとことに、はっきり不承知をふくませた。和一郎のおくさんなんて! そのとき多計代は、小枝が夫を扶けて発展させるたちの女ではない、あんまり享楽的だ、と云った。そういう話を、弟にたのまれるままにひきうけて母に告げる伸子を、多計代は、煽動しないでおくれ、ときびしい声でとがめた。
三月に式をあげて、五月下旬に両親やつや子とフランスへ出発して来た和一郎と小枝との結婚は、伸子がモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で単純に思っていたように、とうとう若い二人も、がんばりぬいた、というだけの愛嬌のあ
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