ォしながら上甲板の端から見えている一つ一つの顔をしらべて行った。あるところへ来たとき、いきなり伸子は全身で爪立って、花束を大きく左から右へ、右から左へとふりはじめた。父の泰造が見つかったのだった。つづいて、つや子がわかった。小枝もいる。母が見えた。そして、和一郎も。
船の上でも、まばらな波止場人足の間にぽっちりと一人まじって、花束をふっている伸子を見わけたらしかった。そこにざわめきがおこって、泰造が盛に帽子で合図をはじめた。つくん、つくん、とび立つような子供らしい手のふりかたで、つや子があいさつをよこした。多計代も和服のたもとをひるがえして高く手をあげた。
それにこたえて、伸子は花ばかりでなく、こんどは青い犬ころと人形とを、ゆるく大きく、輪をかくようにふりまわしはじめた。船の顔々がそれを見おろして笑っているのがわかった。伸子も、笑いながら、
「みんなの顔が見えることよウ」
と叫び、ますます陽気に犬ころと人形とをふるのだったが、そうやって賑やかに笑っている伸子の眼のなかには涙がにじんだ。
何という多計代の変りかただろう。伸子が東京を立って来たころは、いつもふっさりと結ばれていて、多計代らしい派手ごのみだったひさし髪は、ひきつめられて前がみのほとんどない、髪のゆいぶりにかわっている。白粉《おしろい》こそ刷かれているようだけれども、黒い陰気な光線よけレンズに眼はかくされ、さだかでない視線のなかにいる伸子に向って途切れがちに手をふっている肩はやせて、衣紋《えもん》の正しい夏衣裳は骨だって見える。
多計代は変っていた。その多計代が、インド洋をとおってフランスまで来た。この事実は、伸子に同情以外のすべての感情を忘れさせた。
伸子は、泣きそうで喉をぴくぴくふるわしながら、船の上から見ている人たちへ向けている顔の笑いは消すまいと努力して、なおつよく花束や犬ころをふりつづけた。
上甲板に見えていた泰造がいなくなったと思ったら、やがて誰もいない中甲板の手すりのところに彼の姿が再び現れた。近眼の伸子にも、そこまで近づいた父親の顔は手にとるように見わけられた。泰造は、帽子をふり、伸子を見、笑って、そして泣いている。泣いて、笑っているその父の顔を見たら、伸子は、上甲板に向って花束や人形をふりながら、足もとがよろつきそうなこころの激動を感じた。泰造の表情は、保が死んでからの動坂のう
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