ソはその大通りのつき当りにそびえている元宮殿の美術館の方へ、川瀬たちは地下鉄の方へとふたくみにわかれた。
 その日、伸子たちは、川瀬や中館の仲間がよくそこで昼飯をたべているらしい、一軒の日本料理店で彼らとおちあった。外国にある日本料理店には、ほかのところにないしめっぽくて重い一種のにおいがしみこんでいる。それは味噌だの醤油だの漬けものだのという、それこそ恋しがって日本人がたべに来る食料品から、壁やテーブルへしみこんでいるにおいだった。ときわ[#「ときわ」に傍点]とローマ字の看板を出しているその店の、そういうにおいのある食堂の人影のない片隅で、醤油のしみのついているテーブルに向いながら、伸子、素子、中館、川瀬の四人がおそい昼飯を終った。
「ここのいいところは、ちょいと時間をはずすと、このとおりがらあきなことなんだ。――食わせるものは御覧のとおり田舎くさいがね……」
 ベルリン生活のながい川瀬は、懐《ふところ》都合とそのときの気分で、月のうちの幾日かは、顔のきく、そして大してのみたくもないビールをのまなくてもすむこのときわ[#「ときわ」に傍点]へ食事に来ていた。ベルリンのたべもの店には、ビールか葡萄酒がつきもので、それをとらない伸子たちは、食事ごとに、料理の代以外の税金みたいなものを酒がわりにはらわせられるのだった。
 その日それから伸子たちは美術館へゆく予定だときくと、川瀬勇は、
「丁度いいや。ね、きょう行っちまおう、どうだい?」
 大きい眼玉をうごかして、中館公一郎をかえりみた。
「ああ、いいだろう」
「なんのことなの?」
 二人の問答にすぐ好奇心を刺戟されたのは伸子だった。
「あなたがたも、美術館に用があるの?」
「そうじゃないんだが、どうせ君たち、ウンテル・デン・リンデンへ出るんだろう?」
「ほかに行きようがあるんですか」
 素子がきいた。
「やっぱり、あれが道順ですよ」
 柔かに説明する中館を見つめるようにして考えをまとめていた川瀬が、
「君たち、いま金のもちあわせがあるかい?」
 おもに素子に向って云った。
「――たいしてもっちゃいないけど……なにさ」
「君たちに、芝居の切符を買わせようと思うんだ。――どうせ観る気でしょう」
 川瀬はそこでウンテル・デン・リンデン街のわきにあるプレイ・ガイドのような店のことをはなし、伸子たちがあらかじめ順序だてて、ベルリンに
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