ト一つの階級だってわけなんですか」
「まあ、そうですな。――少くともインテリゲンツィアの独自性というもの、ビルドウングというものは守ってそれとして発展させてゆかなけりゃならんのです」
「そのビルドウングとかって、なんなんです?」
素子一流の率直なききかただった。
「日本語で云えば文化とでも訳すかな。ほんとはずっと複雑な内容をもったガイスティックなものなんですがね」
「ガイスティックてのは?」
つっこんでまた素子がきいた。
「精神的、或は知性的とでもいいますか」
皮肉な表情でそうやって、ぐんぐん追っかけてきくところは、素子だった。わきにきいていて伸子はふとユーモラスな気分になった。この素子がモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]である日内海厚と、ロシア字一字のよみかたについてひどく論判して、遂にどっちも自分が正しいとゆずらなかったことがあったのを思い出して。――
「ぶこちゃん、さっきから黒川君の社会主義理論というのを拝聴しているところなんだがね」
暗示的なまなざしで伸子をかえりみながら素子が云った。
「社会主義の理論というものは、元来三十何種とかあるんだってさ。――そうでしたねえ、黒川君。黒川君の社会主義ってのは、知識階級は知識階級、資本家階級は資本家階級として、それぞれの独自性において発展してゆくべきなんだそうだ」
「もちろん、労働者階級を基礎においての話ですよ」
伸子にむかって、黒川は補足した。
「大体日本のインテリゲンツィアが、猫も杓子《しゃくし》もロシアかぶればっかりして、何でもかんでも労働者、農民だってさわいでいるくらい滑稽で非理論的なことはありませんよ。そもそも社会主義ってのは、みんなが、無学な百姓や貧乏な労働者になることを目的としちゃいないんですからね。そうでしょう? すべての者がよりよく生活するのが目的なんです」
「じゃ、つまりこう?」
伸子は黒川隆三にききかえした。
「あなたの考えでは労働者は労働者として、インテリゲンツィアはインテリゲンツィアとして、資本家は資本家として、その区別をいまのままこういう工合でもちながら、よりよく発展して行くべきだっていうわけ?」
こういう工合というとき、伸子は、労働者、インテリゲンツィア、資本家という順に上へ上へとつみあげる手つきをした。
「いいや、社会主義の中では、知識が金の上にくるべきなんです。
前へ
次へ
全873ページ中414ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング