謔イれて、油じみのついたりしているレイン・コートをひっかけているような男もまじっている。
伸子と素子とは、広場が大分閑散になってからそのカフェーを出た。二人とも、互に必要以外の口をきかなかった。どちらも亢奮が去ったあとの疲れのよどんだ瞼の表情だった。
再び二人で立って眺める広場の空気は、群集のもみ合いが散ったばかりでまだ荒れている。広場をとりかこむ高い建物の外壁にぴったりよせて止っていた幾台ものトラックの影もなく、カーキ色外套の連中は退散してしまっている。それとともに、メーデーの行進と赤旗も同じような速さでどこへ消え去ってしまったものか。伸子と素子とはいくらか急ぐ気持でカフェーの前からさっき行進が広場へ入ろうとしていた街すじの見とおせるところまで出て見た。いまその街すじには、二人五人と遠ざかってゆくまばらな人影があるばかりだった。伸子は、見とおしのきくその路面の明るい空虚さから鋭い悲しみを感じた。あの行進の人々はどこへ行ってしまったのだろう。そして、あの揺れていた赤旗は?――ほんの数節うたわれてすぐとだえたインターナショナル。とだえた歌声も群集の頭の波の上にゆらいでいた赤旗のかげも、伸子にすればまだその空の下に残っていそうに思えるのに、その街すじにあるものとては遠くまでつづくからっぽさである。伸子は思わず深く息を吸いこみ、自分の鼻翼のふるえを感じた。これがワルシャワのメーデーだった。ちらりと見えたと思ったらもう散らされてしまったワルシャワのメーデー。行進して来た人々は何百人ぐらい居たのだろうか。伸子にその見当がつかなかったが、あのようにして赤旗の下にかたまって進んで来た人々が、こんなにす早くカーキ色連中と同じように一人のこさず広場のまわりから姿を消したのは異様だった。伸子にはそれが、むごいしわざにならされた人のすばしこさのように思えた。彼らは、おそらく赤旗をかくして迅く走らなければならなかったのだ。赤旗とプラカートがわきおこる音楽の上に林立していたモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]のメーデーの街々が思いくらべられた。伸子の眼に涙がにじんだ。ワルシャワのメーデーに赤旗をたてて行進して来た人々に、伸子は、つたえようのない同感と可哀そうさを感じた。
もと来た道へひっかえす気分を失った伸子と素子とは、自分たちの激しくされた感情におし出されるような歩調で、空虚
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