ノ、ドイツ訛のきつい英語で、
「行進は劇場広場に集ると、けさの新聞にはありました」
と答えた。つづけて、
「しかし危険です」真中からわけてポマードでかためている頭をふりながら警告した。「彼らが、どこで何をやるか、誰にわかっているもんですか。――御婦人の近よる場所じゃありません」
 伸子と素子とが、あしたのメーデーについて支配人から知ることのできたのはメーデー行進は劇場広場に集るだろう、ということだけだった。
 モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]を出るとき、彼女たちは、さて、これで今年のメーデーはワルシャワだ、と感興をもって期待した。去年のメーデーは、赤い広場の観覧席で、音楽につれ流れ去り流れ来る数十万の人々の行進を観た。町々が何と赤い旗と群集と歌とで埋ったろう。ウラア……という轟きに何という実感があったろう。行進が終った午後のモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の、いくらかくたびれたような市中の静けさのうちにさえもとけこんで休日の空気を充していたあのよろこびと満足の感情。伸子にはその感銘が忘られなかった。ポーランドでは、どういうメーデーがあるのだろう。ワルシャワのメーデーを観る。どうせ、五月一日にワルシャワにいられるならそれは伸子にとっても素子にとっても、自然な興味のよせかたなのだった。

 たしかな時間も場所もわからないままに、翌朝九時ごろ、伸子と素子はつれだってホテルを出た。
 目をさました頃にはまだ降っていた雨がやっとあがって、歩道はうすらつめたく濡れていた。街路樹の春の芽もまだかたい枝々から大粒な雨のしずくが音をたてて落ちて、歩道をゆく伸子の肩にかかった。幾たびか通行人にきいていま伸子たちが来かかっているその通りは、市公園のどこか一方の外廓に沿っている道らしかった。低い鉄柵とその奥に灌木のしげみが見えている。規則正しく一定の間隔をおいて植えこまれている街路樹と鉄柵との間にはさまれている歩道は、ひやびやと濡れていて淋しいばかりでなく、人通りがごくたまにあるきりだった。その通行人も雨外套の襟を立てポケットへ両手をつっこんだ肩をすぼめるような姿で足早に過ぎてゆく。
 伸子と素子とは、互にこれでいいのかしらん、と云いながら半信半疑で歩いて行った。モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]のようなメーデーの朝の気配があるはずはないにしても、こんなに
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