ヘ一層声高につづけた。
「わたしが早くかえらしてくれっていうと、ここのドクターと看護婦はいつだって、お前さんのことを引合いに出すんだ。あの日本の女のひとを見ろって、さ! 若くって、遠いところから来て一人ぼっちでねていて、友達が来るだけなのに、もう二ヵ月近く、いっぺんだって苦情を云ったことがないって。食べものについても、治療についても辛抱づよいって。わたしもお前さんに見習えっていうのさ!――ばかばかしい※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
 女は憤懣にたえないらしく、はげしい身ぶりで片手をふった。
「わたしとお前さんとはまるきしちがうじゃないか。こう見たところお前さんはまだ若い――」
 首をのばして伸子の顔を改めて見直して、
「まるでまだ娘っこみたいなもんじゃないか!」
 伸子は、思わず笑った。
「ところが、わたしはどうだね。わたしはもう四十四だよ。うちには、去年生れの赤坊を入れて五人子供がいるんだ。わたしは、あいつらに食べさせ、着させ、体を洗ってやって、その上勤めているんだ――わたしは掃除婦だからね。それに亭主だって――亭主だって見てやるもんがなけりゃ、どうして満足に働きに出られるかね。――わたしは、お前さんとはまるきりちがうんだ。わかるだろう?――どうして、わたしがお前さんと同じように辛抱づよくなれるかってんだ――世帯も持ってなけりゃ、亭主もなけりゃ、乳呑子《ちのみご》だってないお前さんのようにさ。――お前さんにゃてんで心配の種ってものがないんじゃないか」
 粗野な女の言葉のなかに真実があった。伸子には心配の種がないんだ。ソヴェトの働く女というより古い、ロシアの下層の女のままな彼女の暗い不安な、人を信用しない感情には、医者のいうことも疑わしければ、苦労のなさそうな日本の女を手本にひっぱり出されることにも辛抱がならないらしかった。暗くせつなくとりつめて、髪を乱し、伸子にくってかかっている女に、伸子は自分が予期しなかったおちつきで、
「あなたがわたしのところへ来たのは、よかったですよ」
と云った。
「あなたは、本当のことを云いましたよ。たしかにあなたの条件とわたしの条件とはまったくちがうんです。――わたしはひとりもん[#「ひとりもん」に傍点]だから」
 つい体に力がはいって、重苦しくなった右脇に手をあてて圧しながら、伸子は説明した。
「しかし、お医者があなたに云ったこと
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