qの顔を正面から見ながら、
「ところで病気っていうのはどうなんです」
ときいた。
「どこがわるいのかしらないが、いっこうやつれていないじゃないですか。それどころか、艷々したもんだ。いい顔の色ですよ」
 伸子には、権田正助というような商売の人が、まるで見当ちがいな自分の見舞いに来てくれたということが思いがけなかったし、その上、調子の太いもの云いにあいてしにくい感じがした。
「あなたはいつこっちへいらしたんです」
 伸子は話題を自分からはなして権田の側へうつした。
「こっちにも、何かお仕事があるんですか」
 短く刈って前の方だけ長めな髪を左分けにしている頭のうしろを、ばさっと払うようにした片手を膝におとして、権田正助は、
「それがね、面倒くさくてね」
と云った。
「あなた、ブラック・プリンスっていう船の名をきいたことがあるでしょう? 有名なもんだから」
「――さあ、知らないけれど」
「ブラック・プリンスっていうロシアの大きな船が黒海のある地点に沈んだままになっているはずなんです。こんどは一つそいつをあげて見ようと思ってね、それでやって来たんですが、四の五の云って、ちっともらちがあかない」
「権利か何かお貰いになるわけなんですか」
「そうですよ。なかなかこまかい契約がいるんでね。第一引上げに成功したら、その何パーセントかはこっちへとるということがあるし」
 ブラック・プリンスは、世界の潜水業者の間に久しく話題になっている沈没船なのだそうだった。金塊を何百万ルーブリとかつんだまま沈んでいるというのだった。
「それが今ごろまでそのまんまあるものかしら」
 押川春浪の綺談めいた物語に伸子はうす笑いの口元になった。ソヴェトは、こんなに新しい開発建設の事業のために金を必要としている。それだのに、自分の領海に沈んでいる何百万ルーブリという金塊をうちすてておこうとは伸子には信じられなかった。
「案外、もう始末してしまってあるんじゃないかしら」
「いいや、そんなことは決してない」
 つよく首をふって権田正助は否定した。
「第一、誰もまだブラック・プリンスの引上げに成功したっていう話をきいていないんだから」
「だって、いちいち世界へ報告しないだっていいでしょう」
「そう行くもんですか」
 四十を越した年配にかかわらず、権田正助は、一徹に主張した。
「あなたにはわかるまいけれど、海の真中でそ
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