チて伸子は、いそいで紫水晶の耳飾りを手のひらの中に握った。伸子は、ナターシャに、こういうものを見られたくなかった。ナターシャが彼女の大きい少し動物的で勝気そうなあの眼でじろりと見て、肩をそびやかす気持が伸子にありあり映った。ナターシャにとって、それは軽蔑すべきものであり、彼女の階級の歴史が憎悪とともにそれをむしりすてたものなのだ。それをひろって、埃りを吹いて、掘り出しものだと珍重する外国人を見たとしたら、伸子がナターシャだったとしても、さあさあ、そんなものでいいならいくらでもおもちなさい、と思うだろう。伸子は、枕もとのテーブルから紙をとってその耳飾りをつつんだ。そして、ベラ・ドンナの粉薬が入っているボールの薬箱へしまった。
しばらくして、ほんとにナターシャが病室へ入って来た。ちぢれた髪と、濃いはたん杏色の頬と、踵へ重みをかけた重い歩きつきとで。洗いたての真白い看護服と前かけをつけて、ナターシャの丸い姿はひとしお新鮮だった。伸子は、もうナターシャのおなかの大きさにすっかりなれているばかりでなく、おなかの大きい彼女を愛してさえいるのだった。
「ナターシャ、きょうはあなたのちびさんの御機嫌いかが?」
「オイ! とても体操しているんです」
その日は、伸子のひまな日だった。マグネシュームと下剤をのまなくてよかったし、ゾンデもない日だった。
白い病室の壁にまぶしいくらい雪明りがさしている。伸子は、ぼんやりその明るさを見ながら一つの黒い皮ばりの安楽椅子と、白フランネルで縫われた小さい袋とを思い出した。昔、伸子がニューヨークでスペイン風邪にかかったとき入院していたのは、セント・ルーク病院の小さい病室で、黒い皮ばりの大きな安楽椅子が窓と衣裳箪笥の間におかれていた。それは看護婦用のものだった。水色木綿の服の上から、胸のところがひとりでにふくらむほどきつく糊をしたエプロンをかけ、同じようにきつく糊をした小さい白い看護婦帽を頭にのせた一人の看護婦が、その椅子にかけている。そして、モウパッサンの「頸飾」を伸子のために音読していた。
伸子はベッドにねてそれをきいている。日本語の翻訳で、伸子はその傑《すぐ》れた短篇を知っていた。でも、英語でよまれるのをきいている。はじめのうちは克明に声を出してゆっくり読んできかせていたミス・ジョーンズは――背のたかい、伸子に年のよくわからない気のいいその
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