ソを加えた感情の激発を思いおこさせた。
 思ってみれば素子も一年のモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ぐらしで、生活上のいろいろの細目は加えたけれども、本質的な心もちの動きかたには、何とかわりがないだろう。大きいソヴェト生活のうねりに向ってさえも、素子は何かにつけ自分の自分らしさ[#「自分らしさ」に傍点]でうち向って行くようなのを思うと伸子は苦しくなった。
 伸子は微《かすか》に身じろぎをした。そして頬の下へ枕をたぐりよせ、その柔かい羽根のなかへきつく顔をおしつけた。伸子はモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の生活の中へ自分を忘れることを欲するのだった。

        十一

 澄みわたった二月の午後の雪明りが真白な狭い浴室の隅から隅までさしこんでいる。タイルばりの床の上に、車輪付椅子があって、その上に伸子のぬいだ病衣や毛布がたぐめられてある。浴槽には熱いめの湯がたっぷりたたえられていて、その湯のなかに沈んでいる伸子の体は、病人と思えないほど快い桜色だった。胆嚢や肝臓の炎症にかかわらず伸子は黄疸の気味もなかった。すこしのびた断髪のぼんのくぼの毛がぬれるほど伸子はゆったり手脚をのばして湯につかっている。明るい雪あかりは白い浴槽のふちに輝き、短く湯気のたっている湯がほんのり赤い伸子の体の上におこす波だちの上にきらめき、ナターシャの糊のきつい白前掛の膝に流れている。
 ナターシャは、ちぢれた艷のいい栗色の髪を真白なプラトークでつつんで、白い看護服の首のところから洗いたての白前掛をかけ、肱の上まで両腕をむき出している。小さい円腰かけにかけたナターシャは気持よさそうに窓外の雪景色を眺めている。そうしていながらときどき、雪あかりをいっぱいうけて湯の中に横たわっている伸子の暖かそうな肌色の体に目をやり、また外を見ている。ナターシャの頬っぺたの色は日に日に熟して行くすもも[#「すもも」に傍点]の色をしていた。ごみのない澄んだ雪あかりと白いプラトークや看護服のなかで、ナターシャのすもも[#「すもも」に傍点]色の若い頬っぺたは、びっくりするほどの生活力にあふれている。遠いそとの雪景色を見ている彼女のすもも[#「すもも」に傍点]の頬っぺたの横顔やおなかのところで白い大前掛のもりあがっている若い丈夫な躯《からだ》つきには、強壮さといっしょにどこか真面目な重々しさがある。
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