ラ、夜の茶にはどんなにわるい脂でかきまぜた魚とキャベジと人参のつめたい酸づけをたべているかということについても無頓着だった。
 二三日暮らすうちに、グーセフの家のそういう無頓着さは、ほんとにただ無頓着だというだけのもので、むしろ自然な状態なのだということが伸子に会得された。小型なディヴァンも、室の大きさにくらべて異様にちょこんとしたデスクも、グーセフ夫婦にすれば単純に素子と伸子の体の大きさを念頭においてそれらの家具を選んだというのにすぎないらしかった。事実、その極端に小さく見えるディヴァンに伸子がシーツと毛布とをひろげて寝てみれば、それはゆっくりしないまでもさしつかえなく寝床の役に立つのだった。
 グーセフ夫婦は足にあわせて靴の寸法でもはかるように、自分たちからみればずっと小柄な新しい下宿人の寸法に合わせて、清潔な新しい二つの家具を買い入れた。その小型なディヴァンと小型なデスクとが、がらんとしたひろい室にどんな効果をもたらすかということについて夫婦は考えなかった。そこに伸子にとっての苦しいはめがあった。

 むきだしの二つの窓のそとには、十二月下旬の雪が降りしきるノヴォデビーチェのはてしない夜がある。がらんとした室の中に一点きれいな緑色をきらめかせている灯の下で、伸子はデスクに向っていた。せめてデスクにおくスタンドのかさでも気に入ったのにしておちつこうと、伸子はそのシェードをきょうモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の繁栄街であるクズネツキー橋の店から買って来たのだった。伸子は例によって水色不二絹のスモックを着て、絹のうち紐を胸の前にさげている。伸子はこの室へ移って来てから毎日数時間デスクに向ってかけて、そのセメントのにおいとがらんとした室の雰囲気に自分をなじませようと練習しているのだった。
 いまも外では雪の降っている夜の窓に向って、デスクにかけている伸子には、目の前の窓ガラスにうつる緑の灯かげと、その灯かげにてらされて映っている自分の水色のスモックの一部分ばかりが気になった。デスクの上に本と手帳とがひらかれていた。が、それには手がつかない。麻痺するような淋しさだった。なぜこうここは寂しいんだろう。あんまりセメントくさいからだろうか。伸子はしびれるような単調な淋しさにかこまれながらあやしんだ。部屋がガランとしているということが、こんなはげしい淋しさの原因と
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