ェいました。赤い旗を彼等はもっています。ツァーはもういない。革命だ、と彼等は云います。しかし、私どもは何にも知っていない……」
パーヴェル・パヴロヴィッチはそのときの困惑がよみがえった表情で、たれさがっている両頬をふるわせた。
「われわれの受けていた命令は国境警備に関するものでした。われわれは革命軍に対する命令は何も受けとっていなかったんです」
きいている一同の口元が思わずゆるんだ。
「それで、どうなさいました? パーヴェル・パヴロヴィッチ」
リザ・フョードロヴナが訊いた。
「御免下さい奥さん。――わたくしに何ができましょう。私には理解できませんでした。革命軍は将校をみんなひとつところに集めました。そして、その一人一人について、集っている兵士たちにききただしました。上官として彼等を苦しめるようなことをしたかどうか。将校は一人一人、連れ去られました。――おわかりでしょう? わたくしの番が来ました。わたくしはもう死ぬものと思って跪きました。私も将校ですから。ほかの将校たちよりよくもなければわるくもない将校であると思っていましたから。革命軍は、兵士たちにききはじめました。彼等を殴ったことはないか。無理な懲罰を加えたことはないか。支給品を着服したことはないか。――彼等の質問は非常に精密で厳格でした。私の額から汗がしたたりました。幸い、私は、質問される箇条のどれもしていません。ところが、やがて思いがけないことになりました。部下の兵士たちが、革命軍に向って、私を処罰するな、と要求しはじめたんです。私は親切な上官であったから殺さないでくれ。もし彼を殺さなければならないなら、われわれも殺してからにしろ、と叫びはじめました。革命軍は、永いこと彼等の間で相談しました。そして、わたくしはこうして生きています」
パーヴェル・パヴロヴィッチの年をとったおっとせい[#「おっとせい」に傍点]のように曇って丸い眼玉に薄く涙がにじんだ。
「わたくしは、生きました。――しかし、私にはまだわからないようです」
彼の左隣りの席にいる伸子をじっとみて、パーヴェル・パヴロヴィッチは一層舌をもつれさせながら云った。
「私が彼等を殴らなかったのは、私に、人間が殴れなかったからだけです。――概して、殴られるということがそれほど決定的な意味をもっているならば、どうして彼等は、あのときよりもっと前に、それをや
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