ゥつく無趣味につくられているために、かえってネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]河やバルト海や、その都会をとりかこむ水の多さを感じさせる。レーニングラードには不思議に憂鬱な美しさがあった。
 伸子と素子とはレーニングラードのはじめの十日間ばかり、小ネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]河の掘割の見えるヨーロッパ・ホテルにとまっていた。そこで伸子たちに予想しなかった一つのことがおこった。或る朝、新聞のインタービュー記事で、ゴーリキイが、伸子たちと同じヨーロッパ・ホテルに逗留していることがわかった。
「へえ――じゃあ、もう南から帰って来ていたんだね」
「そうらしいわねえ」
 五月に五年ぶりでソレントからソヴェトへ帰って来たマクシム・ゴーリキイは、歓迎の波にまかれながら、じき南露へ行ってドニェプルのダム建設工事その他を見学していたのだった。
「――そうか」
 そう云ったまま黙って何か考えている素子と顔を見合わせているうちに、伸子の心が動いた。
「会ってみましょうか」
 伸子がいきなり単純に云いだした。どんなひとだか会って見ようという心ではなく、もっと対手《あいて》に信頼を抱いている素朴な感情から伸子はゴーリキイに会ってみたい心持になった。云ってみれば会いたくなるのがほんとなほど伸子はゴーリキイの作品の世界にふれていたし、ゴーリキイ展は伸子に人及び芸術家としてのゴーリキイに共感をもたせて伸子自身について考えさせたのだった。
「――どう?」
「ひとつ都合をきいて見ようか」
 明るく眼を瞠《みは》ったような表情を小麦肌色の顔に浮べて、素子ものりだした。
「われわれはいつがいいだろう」
「だって――。あっちは忙しい人だもの」
「むこうの都合をきいてからこっちをきめるとするか」
「そりゃそうだと思うわ」
 素子が小さい紙にノートの下書きをかいた。二人の日本の婦人作家が、あなたに会うことを希望している。短い時間がさいて貰えるでしょうか。御返事を期待します。そしてホテルの自分たちの室番号と二人の名をかいた。
「ところで、宛名、何て書いたもんだろう――いきなりマクシム・ゴーリキイへ、かい?」
 なんとなしそれも落付かなかった。
「グラジュダニン(市民)てこともないわねえ」
 区役所へでも行ったような不似合さにふき出しながら伸子が云った。
「タワーリシチじゃ変かしら」
「そのこころも
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