H いまごろ」
「だって建物の中だもの」
「そりゃそうだけど……」
「大丈夫だことよ。じゃ、ね」
 ニューラとつれ立ってアパートメントを出た。ニューラは普通の外出のときのとおりちゃんと表戸をしめた。コンクリートのむき出しの階段には、それぞれの階の踊場に燭光の小さいはだか電燈がついているぎりで、しめきられたアパートメントのいくつもの戸と人っ子一人いない階段に二人の跫音《あしおと》が反響した。ニューラのこわがったのもわかる寂しさだった。二人は、黙って足早に六階まで登って行った。六階までのぼりきると、つき当りがガラス戸のしまった露台になっていて、右手に、やっぱりはだか電燈のついた一つのドアがあった。その前で止ると、
「ここなんです」
 ニューラはポケットから鍵を出してドアをあけた。はだかの電燈に照しだされて、天井の低いその広間いっぱいに綱がはられているのや、あっちこっちにいろんな物の干してあるのが見えた。床は砂じきだった。ニューラは二人でその物干場へ入ると、また内側から鍵をしめた。そして、伸子の先へ立って、ずんずん、ほし物の幾列かの横を通りすぎ奥に近いところに張りわたされている綱の下に、下げて来たバケツをおろした。張りわたした綱がひっかけられている大釘の上の壁に、アパート番号がはっきり書かれている。ニューラはダブルベッド用の大シーツや下着類を、いそいでその綱に吊るしはじめた。伸子が砂の上に佇んで待っているのでニューラは気が気でないらしく、
「じきです――じきです」
とくりかえした。
「いいのよ、ニューラ、いそがないでやりなさい。わたしはいそいでいないのよ。鍵をしめておけば、こわくもないわ――ニューラは?」
 ニューラは、すぐに返事をせず綱に沿って横歩きにものを干しつづけていたが、
「すこしは、ましです」
と、ぶっきらぼうに答えた。伸子は笑った。天井の低いうす暗いもの干場の空気はしめっぽくて、そこからぬけたことのない石鹸のにおいがした。
「きょうは、どうして、夜もの干しに来たの?」
 伸子が、その辺を眺めながら、ニューラにきいた。
「きょうは洗濯日じゃなかったんです」
「――じゃ、特別?」
「ええ。――さっき、洗ったんです。|奥さん《ハジヤイカ》は、いそいでいるんです」
 不恰好に長い腕を動かしながらものを干している若いニューラの見すぼらしい姿を、伸子は可哀そうに思った。ソ
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