ノ、体をすり合わせるくらい並んでかけていた若い母である須美子の全身から一時に血がひいたように感じられたのだった。須美子は、やっと感動の打撃にたえた。そしてますますきつく両手の指を膝の上でからみ合わせながら、かたく目をつぶった。厚い美しいおかっぱのきりそろえられている頸すじを、苦痛に向ってもたげたまま。――
 柔かくてひろいベッドの上に背中をのばして、伸子は須美子のことを思った。ホノルルにいた二週間が、わたしの一生のうちでは、一番幸福なときだったのかもしれませんわ。デュトの家でそう云った須美子。こんな思いがけないことになってしまってあちらの御両親は、何とお思いになるでしょう。自分の歎きよりも先にそう云った須美子。――
「ちょっと! こっちへ来られる?」
 伸子は、向いの自分の室で、横になっているらしい素子に声をかけた。
「何さ」
「こっちへ来て」
「自分で来りゃいいじゃないか」
 そう云いながら、やがて入って来た素子は、もうパジャマに着かえていた。
「何だ! まだそのまんまか。ぬぎなさい、ぶこ。だめだよ、いつまでも亢奮していちゃ」
 伸子は、ねたまま寝台のわきへ来て立った素子の手をとった。
「ね、磯崎さんて、これからも花なんかしきゃ描かないつもりなのかしら」
「どうだか……。なぜさ、またいきなり――」
「考えていたら、妙な気がして来てしまった――磯崎さんにはあの須美子さんが見えないのかしら」
 伸子は、あの[#「あの」に傍点]というところに力をこめて云った。
「須美子さんは、あんなに人生をもっているのに――」
 ペイラシェーズの、つましい花束が通路のわきにささげられているあの納骨都市の下に、小さく低く並んだ四人の人間が、首を仰向け、子供の骨が、高い脚立の上に立っている黒衣の男の手で天井の下の一区切りにしまわれてゆくのを見上げていた光景、伸子がこれまで見たいろいろな画集の、どこにも描かれていないパリの生活の絵だった。
 磯崎の子供の寂しい葬式のあんまり鮮やかな印象と、須美子の悲しみの真新しさは、伸子自身の悲しみの上をおおいかけていたうす皮をむくのだった。
 去年の八月一日に、保は東京の家の土蔵の地下室で自殺した。伸子は、その夏、レーニングラードのデーツコエ・セローにいた。あの当座、伸子は、思いもかけない瞬間、宙にささやかれる声をきいたように八月一日、と思い出し、保は死ん
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