ノ素子は云った。
「ちょっと待って下さい。すぐ仕度しますから」
 磯崎につづいて、素子、伸子がデュトの家へ着いたとき、ドアをあけた須美子は、泣きたい涙はもう一人でいるうちにすっかり流したという疲れた蒼い顔だった。
「ごめん下さい。おさわがするようなことになってしまって」
 一人一人、素子と伸子の手を握った須美子の握手に、しずかな言葉づかいのうちに抑えられている悲しさの力がこもった。磯崎が、子供の棺のおかれている隣室へ去ったとき、須美子は、黒い服の膝の上においている両手の指をかたく組み合わせ、くい入るようにつぶやいた。
「こんな思いもかけないことになってしまって――。あちらの御両親は、何とお思いになるでしょう」

        二

 磯崎の子供の葬式の日は雨だった。
 ペイラシェーズの墓地のなかに建てられている礼拝堂のような火葬場の祭壇風の大扉のむこう側で、子供の屍をやく焔が燃えた。とけるように赤い焔の色が、そのかげに棺がはいって行った祭壇風の高いところにある扉のガラスからのぞかれるのだそうだった。磯崎恭介は、はじめて子をなくした若い父親の感情と芸術家の追究心と二つに心を奪われている表情で、その扉に顔をよせている。
 伸子と素子とは、黒い服を着た須美子をまんなかにおいて、壇の下のベンチに並んでかけていた。左手の弓形窓から、ペイラシェーズの新緑の色が、雨にぬれてうすらつめたい礼拝堂のコンクリート床の上に流れていた。ベンチのかげや、壇のかげや、そこにあるすべての物の影は、長くのびていた。自働パイプ・オルガンの鎮魂の祷りの曲が、悲しみにつつまれながら泣いていない四人の男女のいる礼拝堂の天井に響きわたった。
 一時間ばかりたったとき、僧服のような黒いなりの男が素焼の骨壺に納められた子供の骨を捧げて現れた。磯崎がその壺をうけとって、その黒衣の男の案内で礼拝堂の外廊づたいにしばらく行った。寺院めいた柱列のある一つの場所へ出た。丁度骨壺の入るだけの四角さに区切られてペイラシェーズの庭に向った一方の高い大きい壁面の全体が納骨所になっている。中央に、十字架のキリストが飾られている。その前に花束が三つ四つそなえられている。ささやかな花束は、壺を抱いている磯崎にしたがって須美子、伸子、素子がゆく外廊の煉瓦の通路の根がたにも、ところどころに置かれていた。高いアーチ形の天井の真下までアパル
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