qの室へはいって来た素子を見て、
「ひるねしていたんじゃなかったの」
寝台のまんなかに仰向けに臥て、頭の下に両手をかっている伸子がきいた。
「ぶこは? ねたのかい?」
「ねたというほどはねないわ。――でも、暑いわねえ」
「七階だからさ。屋根からやきつけてくるんだもの。涼しかろうはずはないさ」
伸子は、五月二十日ごろ神戸を出た欧州航路の船はいまごろ、どの辺を通過しているだろうと考えていたのだった。地中海に、はいっているだろうか。それともその手前のスエズ辺だろうか。母の多計代は日本服で旅行に出て来ているから、帯がどんなに厄介で、暑いだろう。夏になると毎年東京をはなれて暮していた多計代のことを思い出し、いくら乾燥していてしのぎよいと云っても夏のヨーロッパへ出かけて来たことについて、伸子は、はじめてまじめな心配を感じもするのだった。
「わたし、うちの連中のことを考えていたの。――やがてもうそろそろよ」
伸子は、寝台の上におきあがって、坐って、小さな苦笑を唇の上に浮べながら素子に云った。
「えらいさわぎになるでしょうが、どうかあしからずね」
ちらりと眼をそらすようにして素子が、
「そう云えば、本当に来ているんだろうね?」
と云った。
「一向音沙汰がないけれども――」
「大丈夫でしょう、ここの大使館の増永修三ってひとが、連絡してくれることになっているから。着いてからのホテルのことや何かも、父は直接そちらにたのんでいるし」
「増永って――増永謹の息子ででもあるのかい?」
佐々泰造の同時代人で、増永謹は有名な銀行家だった。
「そうよ。こっちへはもう三四年いるんじゃないかしら。大した秀才なんですって……」
素子がまたふらりと自分の室へもどって行って、まだ下手なタイプライターの音をさせはじめたとき、廊下をこっちへ近づいて来る男の靴音がした。どこかのドアのところで止るだろうと思ってきいていた靴音は、そのまま隣りも通りすぎようとしているので、伸子は、いそいで寝台からおりて、自分の室の開け放されているドアをしめようとした。そこであやうく、鉢合わせしそうに顔を合わせたのは、磯崎恭介だった。
「あら! あなただったの!」
その声で、向いの室から素子も顔を出した。
「めずらしいじゃありませんか」
磯崎がガリックへ伸子たちを訪問に来たのははじめてなのだった。
「一人ですか? ま、入っ
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