oして、また男たちの方を見かえった。
「見ないでおきなさいよ」
伸子が、半ばおかしさをこらえたまじめさで注意した。
「なお面白がることよ」
「パリの男って、何て器用な撫でかたしやがるんだろう。さわったかさわらないで、ちゃあんと撫でてやがる」
メトロが来た。伸子がさきに乗りこんだ。つづけて乗りこもうとしたとき素子が、伸子にもきこえたほどきつく、
「チェッ!」
と舌うちした。
「どうしたの?」
「また撫でやがった」
しかし、男たちは、伸子と素子の乗ったその車室のなかへは、はいって来ていないのだった。
四
二つ並んでおいてある寝台の一つに、素子が臥《ね》ている。シーツを体の上にかけて、左の頬っぺたへ当てている氷嚢がずり落ちないように、白い布でくくった蝶むすびがつったっている。頭を、高く重ねた二つの枕の上において。激しい歯痛がおこって、昨夜ちっとも眠れなかった素子は、氷を当ててからやっと落ついた。素子は、これで眠れるのかもしれない。――
伸子は、ホテルのせまいその一室の寝台から離れた、――フランス風の露台のところに、クッションをしいて坐っていた。伸子も、くたびれていた。
歯の痛くなったのが、日曜日のきょうだったのはほんとに途方にくれることだった。ゆうべ、すこし怪しいと云って食塩水でうがいをしてねた素子は、けさ、七時ごろ、
「ぶこちゃん、おきておくれ」
と、自分の寝台から伸子をおこした。
「歯が痛んでやりきれない。明け方から待ってた。――もう磯崎君のところだって起きただろう。医者をきいてきて――」
伸子は、おこされた途端、その日が日曜日だということを思い出さなかった。いそいで着換えをして、ヴォージラールの通りへ出た。朝がまだ早いと云ってももう間もなく八時だから、いつもなら歩道を足早に行く通勤人が多い時刻だった。けさは、どうしたのかひろい通りを下手へヴェルサイユ門の方へ見わたしても、上手を見やっても、プラタナスの緑の並木の梢に朝の光がちらついているばかりで、街はひっそりしている。伸子はホテルの前の歩道にたたずんで、タクシーの通りかかるのをまった。あいにく、そのタクシーも、けさは一台も走っていない。そのときも、まだ伸子は日曜日なのを忘れていた。待ちかねて、朝かげのゆれている通りをデュトの方へ向って歩いてゆくと、はじめての角から、二人のよそゆきのな
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