トになっていない動機が熟していたのだった。マヤコフスキーの自殺や、第二芸術座の「チュダーク(変り者)」や、その刺戟のほかに、素子の日々の生活の感情そのものの中に、伸子を素子にはだまって山上元のところへ行かせるものがあるのだった。
「ぶこ[#「ぶこ」に傍点]が行くのは自由さ。わたしにだまって行ったのも、自由だろうさ。だけれど、もし……」
 素子の声が震えて途切れた。素子の眼に涙がいっぱいになった。
「もし、わたしも、行きたかったんだとしたら、ぶこ、どうしてくれる」
 そういうことがあろうと感じられていなかったからこそ、伸子は素子にだまって、リュックスへ出かける気持になったのだった。伸子は、赧くなって、涙を目にためた。
「ごめんなさい」
 心からあやまった。
「わたしには、そう思えなかったもんだから……」
 やっと、一つの道を見つけて、伸子は素子に云った。
「あなたも行っていい心持なら丁度いいわ。きょう、いっしょに行きましょうよ。この前だって、何にも用という用はなかったんですもの、いっしょに行って見ましょう」
「そんなことが出来るかい!」
 いつの間にか火の消えたタバコを咥えたまま素子は、明るい窓の外に顔をむけた。
「きみに、来い、と云ってよこしたんじゃないの。わたしも来い、とは云ってよこしちゃいないよ。子供のおともじゃあるまいし、用もないのに、のこのこ、くっついて行かれるもんかどうか、考えてみればわかるじゃないか」
 それはそうだけれども、と伸子は考えるのだった。
「御馳走によばれるのとはちがうんだから、わたしは、かまわないと思うけれど……」
 ことの順序として、リュックスに電話し、きょうは素子もいっしょに行くことを、山上元に知らして、承諾を得ればいい。伸子はそれが不可能だと考えなかった。
「ね、そうしていいでしょう? この間のとき、あなたの話もでたのよ、だから……」
「まっぴらだよ。わたしが会いたければ、自分で勝手に行くだけだ」
 素子の気分をやわらげようとつとめる自分に、伸子は抵抗を感じた。素子は自分から一度でも山上元に会おうと思ったことがあったのだろうかと。

        十四

 からりと晴れた、人通りの賑やかなトゥウェルスカヤ通りの角に立ったとき、伸子は思わずベレーをかぶっている頭をふって、深く息を吸いこんだ。
 素子の前にひきすえられていたような、ホテ
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