Q]へ来たのに、何のもてなしもするひまがなくなってから会うことになったのを、素子はひどく残念そうだった。
「――ひとこまらせだよ、こんなの……」
「出かけてしまっているかとも思ったんだが、ひとめ会おうと思ってね」
もうやがて十一時になる時刻だった。伸子は、ひとのいい若い女らしい気のもみかたで、素子に相談をもちかけた。
「ねえ、川瀬さんに、なにをお祝いする? もって行かせなけりゃ。こっちから品物は送れないんだから」
「何にもいらないよ」
「そうは行かないがね」
考えていて、伸子と素子とは、いちどきに口をききかけた。
「この間クスターリヌイ(民芸美術館)へ行って買って来たものを出して、見てもらおう。その中から気にいったものをよってもらうのがいいだろう」
「わたしもそう思ったところだった。じゃ、すぐ出す」
床の上にひざまずいて、伸子は自分の寝台の下におしこんである籐の大籠をひき出した。そして、ロシア刺繍のほどこされた数枚のテーブル・センターと、まだ仕立ててない婦人用ルバーシカを、テーブルの上に並べた。
「ホウ。――こりゃ、きれいだ」
ロシアの民芸として刺繍は世界に知られていた。色どりも図案も繍《ぬ》いかたも多種多様で、北方地方のものと、ウクライナ辺の作品とでは配色も模様も、全くちがった。
伸子は、ルバーシカ地をひろげた。
「これにしましょうよ、川瀬さん、これはきっと、奥さんに似あうと思うわ、どう?」
ざんぐりした麻の布地に、水色と空色金のようなレモン色、それにところどころ濃いブルーをちりばめて、小花のようにつづいた幾何模様が繍いとりされている。ドイツの女のひとであれば、ゆたかな金髪であろう。そして、川瀬の妻であるひとならば、きっと、さっぱりとした頬の色のひとであろう。そういう金髪と自然な頬の色に、このルバーシカを仕立てて着たら、夏のころには、なかなか眺める川瀬の眼にもたのしかろう。伸子は、そう思って、すすめた。
「だって、誰かが着るために買ったんだろう」
「あながちそうでもないんだから、いいよ。黒い髪よりは金髪のひとが着た方がひき立つ」
「そりゃあそうかもしれないね、この色どりは……」
伸子は布地をひろげて、これはカラーの部分、これはカフス、これは胸前のたての襟になるところ、と、ルバーシカが仕立あがったときの形に、刺繍された布を並べた。
「ああそうか、その布
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