ゥ覚させているらしかった。
画家らしさからというよりも、青年らしさから、ミチェンコの批評をまともにうけた蒲原順二を、伸子は親愛の感じをもって眺めた。
十三
プロレタリア美術家同盟は、蒲原順二の二度目のやりなおしを支持して、制作が完成したときに支払う予定の金の一部を、早く彼にわたしてくれた。
その金で、蒲原は、同盟の事務所で知りあった若い画家の親戚という家の一室をかり、パッサージ・ホテルをひきはらった。モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]河岸のあっち側で、ごろた石じき道の上に馬糞や藁くずの散っている倉庫通りから入った、裏町の一隅だった。
ペンキのはげた木造の門が傾いて立っている。乱雑にがらんとした内庭をかこんで、いくつか建てられている古びた木造家屋の中には、幾組もの家族がこみあってすんでいるらしく、内庭に面してほしもののある出入口の階段に、子供たちがかたまって遊んでいた。
蒲原のかりた室は、ひどく脂じみていて床の一部は腐っていた。
「モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]には、むずかしい規則があるんだそうで、僕はここで借室人ではないんです、泊り客というわけなんです」
「なるほどね。お客をとめるにしちゃちょっとひどすぎるけれど、絵をかく人なんだから、ホテルになんぞいるよりずっといいですよ。ホテルじゃ画なんか描けっこないさ。雰囲気がないんだもの」
「そうなんです」
蒲原は、伸子たちのところを出た動機が、素子にも自然に理解されていることを満足そうにうなずいた。
「おまけに、僕自身、少々、まとまりよく出来すぎているんです。――芸術家として、マイナスだと思うけれど、生れつきかなあ」
「ふ、ふ」
素子が好意とからかいとを交ぜて若者を見る、年かさの女の眼で蒲原を見た。
「それできみが芸術家きどりだったりしたら、一日でわれわれのところはおはらいばこさね」
蒲原は、意識してか意識しないでか、伸子と素子と、どちらに対しても、中性的な存在として暮したのだった。
補助ベッドがとりはらわれて、伸子たちの部屋は久しぶりにひろびろした。何もなくなった床のそのところに窓からの朝日がさしこんでいる。気がねなしに、ぬいだり着たりすることは伸子にとって新鮮なくつろぎだった。
そういうある朝、二人きりの、のんきな時間で伸子と素子とが茶テーブルに向いあ
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