ッです、佐々さん。ここにいる日本の青年は、さっきベルリンから来た画家です。ヘル・ジュンジ・カンバーラ」
 ノヴァミルスキーは、伸子に蒲原順二を紹介した。
「彼は、ドイツ語を話します。しかし、ロシア語は全然知りません。いかがでしょう、何とかあなたとヨシミさんとで、彼を落付けるようにしてやって頂けますまいか」
 伸子は、何だか話がさかさ[#「さかさ」に傍点]なような気がした。|В《ヴ》・|О《オ》・|К《ク》・|С《ス》は、こういう人にモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]滞在の便宜をはかる、組織であるはずなのだ。
「――わたしには、ことがらがよく理解されないんです。どうして、わたしたちが彼を、世話しなければならないんでしょう――個人的に――」
 そう云っているうちに、伸子には、いろいろ具体的な疑問がわいた。
「わたしたちは、ベルリンで彼に会っていません。いまはじめて会ったばかりです」
 蒲原順二が、ほんとにちっともロシア語を知らないのか、あるいは少しはわかってきいているのか、伸子はそういうことにかまわず、文法のあやしいロシア語で、ためらわず話した。
「彼がどんな画家であるか、わたしはそれを知りません。ベルリンで彼がどのように生活して来たか、わたしたちは、それも知らないんです。あなたに、それらのことがわかっていらっしゃるんでしょうか」
「わたしも知りません。だが、彼はベルリンで描いた絵を数点もって来ています、それは今、美術部のものが見ていますが――ちょっと待って下さい」
 ノヴァミルスキーは席をたって大股に机の角をまわり、廊下の方へ出て行った。ノヴァミルスキーのいるところは接客室とも云うべきところで、美術・宣伝部は、階段の反対側にある広間だった。
 二人きりになると、蒲原順二という青年画家は日本人同士のくつろぎのあらわれた表情になって、
「どうも、すみません」
 伸子に世話になることがきまっているように挨拶した。
「いいえ。――でもいきなりで。――いつおつきになったの?」
「二時間ばかり前、停車場からタクシーでまっすぐここへ来たところなんです。日本へ帰る前、是非いちどモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ来たかったし、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で知っているところと云えばВ・О・К・Сしかないもんですから」
 蒲原順二は、去年の十二月はじめ
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