f子は、左手で肱を支えるようにしてタバコをもっている手はそのまま、顎を出すようにした。
「こうやって歩いている連中の様子からしておととしとまるっきりちがう」
「どうちがう?」
 伸子にも素子が目をとめたところはわかるようだった。けれども伸子は素子からききたかった。
「この連中の体も気分も、ちっともくずれてない。おととしみたいに、行進がすんだら、それだけで、足もとまでずるつかして遠足がえりになっちゃう、あれがない。たいしたちがいだ。しゃんしゃんしているじゃないか」
 リラのわきに立ちどまって見ている伸子たちの前後を、通ってゆく、というよりも公園いっぱいに流れて来ては流れてゆく男女は、大小の群れになって、笑ったり喋ったり、いまはもう巻かれている重い旗を肩から肩へかつぎかえたりしながらも、ほんとに素子がいうとおり、これで年に一度の行事がすんだという、ゆるんだ表情はどの顔の上にも見出せなかった。人々の気分の密度が変っていない。
「はりあいがあるんだわ。どのひとも、自分の背骨はちゃんと立っているっていう気分なんだわ」
 モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]のメーデーは年ごとに行われて来たが、こういう気分は、おととしのメーデーになかったというばかりでなく、やはり五ヵ年計画第二年目に特別な調子だった。
 伸子たちが見ている前を、旗やプラカートをかついだ男女の大きなひと群れが通った。出版労働の連中だった。五ヵ年計画を四年で! とスローガンを題字にした赤い表紙の本のつくりもの。文盲撲滅! その下に二四六三七万ルーブリと五ヵ年計画が支出する文盲撲滅費を書き出したもの。ことしは、どの組合のプラカートも、四つに一つは自分の職場での五ヵ年計画生産の増大指数を書き出しているのも特徴だった。ひとかたまりの若い婦人労働者たちがおそろいに赤いプラトークで髪をしばっている。円い顔、すこし色のわるい細おもて。いろんな顔だち。彼女たちの金髪は赤いプラトークにてりはえてひとしお金色にかがやいている。ズックの運動靴、薄色の粗末な靴下。歩いているうちにすこし下ってそれがよじれはじめているのにも心づかないで、活溌な足どりで河ぷちを行く。
 その群れの中に、伸子は、一つの変ったプラカートを発見した。コルホーズの風景を遠見に描いたそのプラカートには、農民新聞をよめ! とある。それから丁度、見事に波うっている(
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