シ名ワ、1−7−82]の下宿で、伸子は湯加減をみるためにガス湯わかしの匂いがかすかにする浴室へ立って行きながら考え沈むのだった。ふくよかに、おっとりして、赤い小さい唇をしていた蕗子の生のなかにもこうして一つの切実な思いからの死が包括された。伸子が自分の生涯のなかに保の死をうけいれたように。蕗子にとって弟の死は、いつも彼女の前に立つだろう、なぜなら、その青年は自分ののりこせないものから逃避したのではなくて、そこへ身を投げ入れたのであったから。
石鹸の泡を体じゅうに立てこすりながら伸子は尾を長くひく考えの継続から自由になれなかった。ある立場に自分を据え、その立場によりたっていろいろ議論することに熱中している人たちと、その議論によって考えさせられ、自分をきびしく吟味し、生命の価値さえ自分の責任で決定してゆこうとする正直な、ごまかしのない人々の存在。――伸子は、自分たちは、はたとの関係においてどんな風に生きて来ているかと思ってみずにいられなかった。二人の友人である河野ウメ子は、おそい結婚――どこか偶然めいた不安を感じさせる結婚だが、その結婚をすることに心をきめた、と云ってよこしている。あいてのひとは、哲学者であり、ウメ子の小説をよんで、彼女の文学を成長させてやりたいと云っている人だとのことだった。お二人にお目にかかることもなくなってまる二年ちかくになります。このごろは私も自分ひとりの暮しの中で何となし新しく展開するものをもとめるようになって来て居ります。――
モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で暮していた日ごろ、それからまたパリへ行って生活していた日々、伸子はウメ子にときどき便りはかいていた。だけれども、ウメ子に会わなくなってもう二年たったという風に互の友情を感じたことがあったろうか。
四
十二月の雪がモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]に降りはじめた。全市が美しい白と黒の雪景色にかわった。アストージェンカの広場からはじまっている並木道の遠い見とおしの上に、ひとすじの黒いふみつけ道が出来た。
雪は毎日根気よく降りしきり、人々は惜しげなく雪の白さをよごして活動し、陽気で混雑したモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の冬がはじまった。
ことしの雪景色は、去年とちがった。モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]のあちらこち
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