@片手をつかまえられたまま、伸子は、蜂谷の体のどこかが工合わるくて苦しいという意味と、二人の間にある緊張が苦しいという意味とを、ごっちゃにうけとった。
「伸子さんがいま入って来て、僕を見たときの、あんな優しさ」
 伸子の手をはなして、蜂谷は、小さい子供がやるように、両方の腕を伸子に向っていっぱいにのばした。
「僕はくるしいんだ、伸子さん」
 いつの間にか伸子は椅子から立ちあがっていた。そして、首をかしげ、目鼻だちのぱらりとした顔の上に不思議なかがやきを浮べながら、黙って、まじめに枕についている蜂谷を見おろした。いつ、靴がぬがれたとも知れず、伸子の体が、軽く、なめらかに、蜂谷の寝台のかけものの下にすべりこんだ、厳粛な、そしてやさしい表情で蜂谷を見つめたまま。――
 シーツごしに蜂谷の全身がふるえ、てのひらいっぱいの力が、伸子の背中を撫でおろした。それと同時に、伸子は、破れたような一つの声をきいた。
「ああ、伸子さんは、すっかりきもの[#「きもの」に傍点]を着ている!」
 すっかりきものを着ている――? 何のことだろう。すっかりきものをきている[#「すっかりきものをきている」に傍点]。…………
 伸子は、そのかけものの下へすべりこんだと同じ軽さとしなやかさで、いつの間にか蜂谷の寝台からぬけ出た。そして、そばの椅子につかまった。蜂谷から目をはなさず。
「なんてひとだろう! そんなに僕を苦しめなくたっていいじゃないか」
 伸子は蜂谷を苦しめようと思ったことは一度もない。だけれども、すっかりきものを着ていない[#「すっかりきものを着ていない」に傍点]自分というものは、伸子に考えられない。
「僕ははじめからよくわかっているんだ、僕が佐々さんを愛しているように愛していてはくれないんだ……だからって、侮辱しなくたっていい」
 侮辱――? それも伸子におぼえのあることではない。
「こっちへ来て」
 そういう蜂谷の顔は、伸子に見なれないものだった。
「…………」
 反対に伸子は椅子のむこう側にまわって、寝台と自分が立っているところとの距離を大きくした。
「ね、来て」
「だめ」
 混乱して、かすれた伸子の声だった。
「どうして?」
「だって……ちがうんだもの」
「何が」
「――タワーリシチじゃないもの」
 むっくり、蜂谷の上体が寝台で起きあがった。
「じゃ、タワーリシチなら、君にはどんな
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