T点]はあつくて、それは、一日じゅうオープンの自動車にのって風をつっきって走ったからだ、と伸子は思った。
「気分がわるい?」
「いいえ」
 シャロンのステーションは、この地域でもいく分大きい町らしく、明るい駅頭に乗り降りする人影が黒く動いたが、伸子たちの車室へは入って来る乗客も降りてゆくものもなかった。もしかすると、伸子たちのところからは見えない仕切板のあっち側には、誰ものっていないのかもしれなかった。
「何だか僕もすこし寒くなって来たみたいだ。もっと近くに坐ろうよ」
「この汽車ったら、あんまり、がらあきなんだもの……」
 伸子は、窓ぎわの隅からはなれて、ベンチのまんなかにいる蜂谷のわきにかけ直した。
 夜に響く単調な車輪の音にひきこまれたような沈黙を破って蜂谷がぽつんときいた。
「佐々さん、ほんとに十一月いっぱいでパリをひきあげるつもりなのかな」
「そうよ」
「――ぜひもう一遍、どこか近いところへ行きましょう。ね、こんなに長い汽車にのらないでいいところへ」
「どんなところ?」
「そりゃ、いろいろある」
「だって、わたしたち、どっちもろくにお金をもってないくせに」
 伸子は、笑いだした。
「わたし、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ帰る旅費だけは、大事にとっておくんだから」
 眉をしかめるような斜かいの見かたで、蜂谷は、彼のかたわらに笑っている伸子を見た。
「僕は、きょうだって、外の連中と来たのは失敗だったと思っていたんだ」
「どうして?」
 ぼんやりしていた伸子の注意がめざまされた。伸子は、はっきりした声の調子にもどった。
「丁度六人で、きっちり、都合がよかったと思うわ」
「そんなことじゃない……佐々さんは、きょうは、いつものきみじゃあなかった」
 たしかに、ヴェルダンの一日、伸子は口数が少なかった。伸子の受けた感銘がそうさせたのだった。
「それは、わたしが感じたことは、言葉にすると、どれもこれもセンチメンタルみたいだったから……」
「ほかの連中がいなけりゃ、佐々さんはもっと自由だったにちがいなかったんだ。僕はそれが残念だというんだ」
 伸子にものをいうひまを与えず、
「僕には、大体わからないんだ。伸子さんともあろうひとが、どうして、そんなにいつもセンチメンタルになることをおそれていなけりゃならないのか」
 蜂谷の云いかたは腹をたてているように、圧しつ
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