フ兵士をヴェルダンの風雪の中にさらしたまま、永久の閲兵式を行っているようでもある。殿堂に正面を向けて二万の白い十字架が整列しているのだった。彼らが何を考えて生き、そして何を苦しんで死んだかということについては語らず、彼らの番号と名だけを十字架の上にしるされて。
伸子の眼の中に悲しみとはちがう涙がにじんだ。一行の人々は、天井へ仰向いて有名な将軍の名をよんでいる。一人はなれて佇んでいる伸子の唇からうめくようにロシア語がもれた。|何のために《ドリヤ・チェヴォー》※[#疑問符感嘆符、1−8−77] じっさい、何のために? これらの人々は死に、死んでまでものこる階級による殿堂がつくられ、風光明媚なジェネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で、贅沢な道具だてにかこまれながら快適に軍縮会議が演じられている。
「|フランスのために死せり《モルト・プール・ラ・フランス》」しかし、それはフランスの誰のため[#「フランスの誰のため」に傍点]だというのだろう? フランスの政治がひとにぎりの人々パリ・オランダ銀行の重役たちに支配されていることは周知の事実である。そのパリ・オランダ銀行はドイツの軍需会社クルップ――そこでこそ一九一八年にパリを砲撃した長距離砲ベルタが製造されたクルップと、毒ガスのイーゲー染料工業と結んでいる。国際連盟《リーグ・オブ・ネーションズ》の提唱者はウイルソン大統領であった。けれども、そうしてできた連盟にアメリカは参加しないでいる。一方で国際連盟は、ソヴェト同盟の参加を拒みつづけている。あらゆる機会をうかがって、反ソヴェト十字軍が準備されている。――ふたたび戦争をしまいとする意志。番号順に整列させられているこの二万の白い十字架こそは、マクベスの城のぐるりにあった森のように動いて、シルクハットをかぶって平和を語っている人々をとり囲み、その真実を問いつめる権利をもっているのだ。
スーヴィユの要塞。それからヴォー要塞。伸子たち一行の自動車が、ヴェルダンで最も苛烈な戦闘の行われたというドゥモン要塞への道にかわったとき、よく晴れていたその一日も終りに近く、傾いた西日に山容が黒く近く迫って見えた。朝夕のうす霜で末枯《すが》れはじめたいらくさ[#「いらくさ」に傍点]の小道をのぼって行くと、思いがけず茶色の石でつくられた祭壇風の建造物のよこへ出た。二メートルほどの高さで斜面から数
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