C分においても彼と似ている。
 伸子の父の泰造がロンドンに留学していたのは、丁度いまここに集っている人々と同じ年ごろであり、五つだった伸子の下に小さい二人の男の子がいたという事情も似ていた。ここにいる人たちの、ふっきれない神経の複雑さが理解されるように感じたとき、伸子は、父親のロンドン生活の、いままでは見えなかった側面にふれたように思った。そこには、多計代ばかりでなく、多くの妻が嫉妬をもって想像したりするよりも、もっと人間らしい何かの飢渇があるのだ。そして、伸子は、年月はいつの間にかあのころ五つだった娘の自分が、そんな風にも考える女の年ごろになってパリに一人いることにおどろくのだった。

 郊外からサン・ラザールの停車場まで帰って来たとき、蜂谷が伸子を誘った。
「思ったより早かったな。――ここからだとつい近くだから、野沢君のところへよって見ませんか」
「よってもいいわね」
 佐々のうちのものがパリを立つとき、ペレールの家へ来あわせた蜂谷良作と野沢義二が、荷づくりの手つだいをして北停車場まで送ってくれた。それから伸子は野沢に会っていなかったし、手紙も書いていなかった。
 夜のパリの裏通りをいくつか折れて、空倉庫かと思われる薄暗いがらんとした入口から、伸子は一つの建物に案内された。
 狭くて賑やかな裏通りの錯綜した光の中を来た伸子の眼には、ぼんやり何か大きく積みあげられている物の形しか見えない埃っぽいコンクリートの床から、じかに幅のひろい鉄製の階段が通じていた。がらんとした入口がほとんど暗かったように、その鉄製の幅ひろい階段も、やっと足もとの見当がつく暗さだった。だまって蜂谷良作に肱を支えられながら、そこをのぼり、伸子は、上へ出たらそこは明るいのだろうと思った。ホテルらしい帳場のようなところもあるのだろうと思った。
 ところが、二階のおどり場には電燈こそついているけれども、燭光の弱い光にぼんやり照し出されて、無味乾燥に何ひとつなく、そこに面していくつかの戸が無愛想にしまっている。
 めずらしいのと、多少気味がわるいのとで足音をしのばせるようにしている伸子の先に立って、蜂谷が一つのドアをノックした。語尾が澄んでいて、そこにきき覚えのある野沢の声が、
「|お入りなさい《アントレ》」
 部屋のひろさを思わせて響いた。
 ドアを入った伸子の最初の一瞥にうつったのは、正面に夜の空
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