スちに(鉄道王・石油王・自動車王などに)銀行利子の引下げと、一年一億六千万ドルの所得税免税を許しただけのことであり、労働者はグリーンやウールのおかげで賃上げのたたかいを禁止され「労働者はあらゆる自分たちの問題の解決に際して、あらゆる途を講じて産業側と協同」することを約束させられただけのことであった。この協約《パクト》は、経済安定のために新しく八〇億ドルの新事業に着手することを予約しているけれども、これは当座の見せかけで実現しないであろうし、恐慌は救われず、単によりゆるやかな形に変ってそれを引きのばすにすぎない。なぜならば、フーヴァーと大資本家の計画が実現するものとすれば、このたびの恐慌によって暴力的解決をよぎなくされた原因そのもの――社会の生産力と消費力との不釣合――が、八〇億ドルの生産増進によって、ますますその不釣合を鋭くすることにしかならない。「リュマニテ」は「フォードのデマゴギー」という大きい見出しで、自動車王フォードの厚かましい声明を分析した。フォードは恐慌の進行していた十一月二十一日、いきなり、フォードの会社は、十五万人の従業員に対して賃銀を引下げるどころか、むしろ賃銀を引上げるだろう、そして自動車の価格も下げるだろうと発表した。フォード自動車会社は、労働者の初給五ドルを六ドルに、これまで働いている労働者たちの最低賃銀を六ドルから七ドルまで引上げる、と。しかし現実におこったことは次のようだった。フォードは、よりやすい新型自動車をつくるために模様がえをするという口実で、大部分の工場の作業を中止した。そして、もう必要のない職場の労働者数万をほうり出した。世界に名のひびく殺人的な合理化で四、五年間働かせられているフォードの労働者は、次の雇いてを見出すのがむずかしい。彼らがすっかり搾りあげられてしまっていることは周知であるから。
フォード自動車がやすくなるのは、フォードにくっついて生きている何万人という販売者たちの手数料が二〇パーセントから一七・五パーセントに切下げられたからであった。たとえば二五ドルやすくなったフォード一台について、手数料のやすくなった販売者たちの負担はその二五ドルのうち一七ドル半。フォード会社はただの七ドル半を背負うにすぎない。販売者たちの負担で、これまでより貧しくなった人々の財布から、フォードはこれまでよりも儲けようとしているのだった。十一
前へ
次へ
全873ページ中632ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング