フ市場ではこの数年来、投機によって証券の価格がつりあげられ、最近の一年半だけでさえ平均一倍半にあがった。配当もスティール株などは二割五分以上であったからアメリカ全土のいくらかでも貯蓄をもてるようになったすべての人々は、誰も彼も、投資熱にまきこまれた。これは当然危険を意味する現象だったけれども合衆国銀行の頭取ミッチェルその他財界の大立物たちは、株の高いのは将来もっと利潤が多くなるという確かな期待に立ってのことであるし、配当も将来もっと多くなると期待される、と云いつづけた。アメリカじゅうの「素人《しろうと》筋」は完全にそれにだまされたのだった。
「事実を冷静に観察する専門家の中には、市場は、人工的に押し上げられて来た自身の重さで潰れるだろうと、警告していた者もあります。すでに九月に恐慌の波頭が見えたときに」
「一度も二割五分の配当なんかにあずかったことのないフランス人は、アメリカの恐慌のおつき合いを欲していません。少くとも、わたしはそうだね」
 ベルネのその言葉は、彼と蜂谷との会話に注意を集めている家族に対して、主人としてやや特殊な立場にある彼の見識を示すために云われたように伸子は感じた。
「フランスは、フランの切下げ以来ヨーロッパのどこよりも経済事情が安定している。いますぐ恐慌でかき乱されることはないでしょう。しかし、こんどの大規模なアメリカの恐慌が世界経済に影響しないということは、絶対にあり得ない」
「――絶対に?」
 正しい姿勢で椅子にかけたまま、細君がテーブルのむこうの端から訊きかえした。
「フランスに対する影響は、ゆるやかに、或は一番最後にあらわれるかもしれない。だが、さけるということは出来ますまい」
「ふむ。天然痘だってね、最後にかかった奴のあばた[#「あばた」に傍点]はいつも深くのこるもんなんだ」
「ほんとうにみんな戦争ですよ。戦争ってものは、一つだっていいことはのこさないもんですさ」
 おばあさんは、肩にかけている薄い毛糸の肩かけを、一層赤くなったように見える両手で胸の前へひっぱりつけながら、ためいきした。
「ご覧なさい。戦争で儲けたのはアメリカでしたよ。景気《ブーム》! 景気《ブーム》!」
 ベルネのおばあさんは、がんこ[#「がんこ」に傍点]ものらしく、ブーム、ブーム、と口をとがらせて蒸気が噴くように云った。
「あげくに、こんどは恐慌《パニク》! それ
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