゚後約束の時間に伸子をたずねて来た。
六
蜂谷良作とつれだって、伸子はその日のうちにエトワール附近にある貸室をみに行った。ペレールのアパルトマンの古風さにくらべると、新式で軽快な建物の三階の一室だった。ウィーンの下宿《パンシオン》がそうであったように、ここも持主の住んでいる部屋の入口は別で、ひろやかで明るいエレヴェーターぐちをとりまいて、いくつかのドアのある建てかただった。
灰色っぽい小粋ななりをした、賢い目つきの五十がらみの主婦が、あっさりした態度で、蜂谷良作と伸子にその室を見せた。貸室はエレヴェーターを出て、右手に両開きのドアをもった部屋だった。
ドアがあいて、室内がひとめに見えたとき、伸子は、自分の住めるところではないと感じた。横長くひろびろとしたその室のヴェランダと、大きい二つの窓は、晩秋の色にそまった並木越しに凱旋門の一部を見晴らした。いかにもシャンゼリゼの近くらしい贅沢で逸楽的な雰囲気の部屋であった。この部屋のもち主は、能率よくこの部屋を働かせるために、これまで住んでいた人たちが立つと、すぐその日の午後であるきょうの三時から五時まで面談と新聞広告をだしたにちがいなかった。目を見はらせる室の眺望とともに、これまで住んでいた人の暮しのぬくもり、女がつかっていた香水ののこり香さえまだどこかに漂っている。
もと住んでいた人たちというのは男と女であり、夫婦であって夫婦でないようなつながりで、この美しい眺めの一室に贅沢な拘束のない生活をしていた、そんな風に感じられた。
蜂谷良作は、伸子の柄にもない部屋がまえについて何と感じているのか、表情に変化のない顔つきで、主婦と室代について話している。室代は場所がらと、二つの窓のすばらしい眺望が証明しているとおり高かった。
「御希望でしたら朝の食事だけお世話いたしてもようございますよ、牛乳入コーヒーのフランス風の朝飯なら、これこれ」
ひろい室内をヴェランダや窓に沿ってぶらぶら歩きまわりながら、伸子は、借りないときまっている気持の楽さで、主婦と蜂谷の問答をきいた。
「もし、イギリス流の朝飯がおのぞみでしたら、お二人で、これこれ」
「マダム、部屋をさがしているのは、このマドモアゼルなんです」
正確だが重くて平板な蜂谷のフランス語が主婦の流暢《りゅうちょう》で弾力のある言葉をさえぎった。
「彼女が一人
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