A眠っている人がうるさがらないようにという風に、恭介の顔の上にハンカチーフをかけた。
「お仕事、どうなったかしら」
先日あったとき、もうじき描き終ると云っていた恭介のサロン・ドオトンヌのための絵だった。
「あれはすみましたの。搬入もすまして――ひとつは、その疲れがあったのかもしれませんわ」
二人は、磯崎恭介の横わっている寝台を見下しながら、小声で話すのだった。
「小さいひとは? マダムのところ?」
「ええ。けさ呼んだ看護婦さんが、親切な方で、ずっといてくれますの」
少しためらっていて、伸子は須美子に云った。
「急なことになって、もしわたしのお金がお役にたつようなら、いくらかもって来ましょうか。わたしは少ししかもっていないけれど、借りることができるから――」
「ありがとうございます。今のところよろしいんですの。丁度、磯崎のうちから送って来たばかりのものが、まだ手をつけずにありましたから――」
それをいうとき、須美子の顔の上にいかにも辛そうな表情がみなぎった。日ごろから、須美子は、磯崎の両親に気をかねていて、上の子に死なれたときも、それは、須美子の落度であるように云われた。突然の悲しみの中でも須美子は義理の親たちの失望が、自分に対するどんな感情としてあらわれるかを知っているのだった。
四五人来あわせている人々のなかで、一番年長のひとが、和一郎の美術学校時代の美術史の教授だった。ひかえめに、ロンドンにいる和一郎の噂が出た。磯崎恭介に近い年かっこうのほかの人たちは、みんな画家たちだった。伸子がその人々と初対面であり、こういう場合口かずも少いのは自然なことであったが、磯崎恭介そのひとが、これらの人々との間に、果してどれだけうちとけた親しいつきあいをもっていたのだろうか。異境で急死した人の女の友達の一人としてその座に加っていて、伸子がそう思わずにいられない雰囲気があった。パリの日本人から自分を守って努力していたような磯崎恭介。その人の意志にかかわらず突然おこった死。ここにいる人たちは、ほかの誰よりちかしい友人たちではあろうけれども、そこに来ている四五人の人々の間で磯崎についての思い出が語られるでもなかった。友人たちの心から話し出されるような逸話をのこしている磯崎でもないらしかった。
しばらくして、須美子も寝室から出て来てその席につらなった。彼女は半円にかけている客た
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