「ている門番の小窓には、背後から橙《だいだい》色のスタンドの光を浴びて、カラーなしのシャツ姿の爺さんが首を出していた。
「ヴォア・ラ! あなたへ、電報」
細長くたたんである紙をさし出した。伸子は、不安なような、全く不安のないような変な気分で、それをうけとった。
「ありがとう」
心づけを爺さんの手のひらにのせて、伸子はうちのものの佇んでいるエレヴェーターのところへ行った。
「――おや、電報かい?」
多計代が、神経質にまばたきした。
「わたしのところへ来たのよ」
「吉見さんだろう」
素子はモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ着いたとき、ロンドンのホテルあてに伸子に電報をよこしたし、伸子たちがペレールへかえってすぐのときも、電報をよこした。ぶこ、かわりないか、やど知らせ、と、ローマ字で書いて。手紙の往復の間をまちきれない素子のこころもちが、その電文に溢れていた。いまも、伸子は、七分どおりモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]からだろうときめて、おどろかずに電報をうけとったのであった。折りたたまれた紙をあけて見て、伸子はまごついた表情になった。
「変だわ、これ。――何のことなんだろう」
ケサ六ジ、イソ、ザ、キキョウ、スケシス
スケシスというギリシャ語みたいなローマ字つづりで、いきなり戸惑わされた伸子は、冒頭の、ケサ六ジという一句の意味が明瞭で動かしがたいだけに、よけい判断を混乱させられた。わかるのは、この電報が素子からではないということだけだった。イソ、ザ、キキョウ、スケシス Iso za kikyo Sukeshisu とは何のことだろう。
「みせてごらん」
泰造が、すこし顔からはなして読む電報を、わきに立って、伸子ものぞきこんだ。
「ね、――わからないでしょう?」
ややしばらく電文を見ていた泰造が、
「これは、綴りが、ちぎれちまっているらしい。上の字へつくはずだったんじゃないか。イソザキ、キョウスケっていう工合に。――そういう名のひとを伸子は知っているかい」
「知っているわ」
そう云われて、目をすえてよみ直した伸子の頬から顎へ鳥肌だった。
ケサ六ジ、イソザキキョウスケ シス――死す――
「まあ!」
それは伸子の心からのおどろきの声であった。
「どうしたっていうんでしょう!」
若い画家である磯崎恭介と、やはり画を描く若い妻の須美子は
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