c…」
 男の友人たちとの間で話が議論めいて来ると、ぐいぐいつっこんでゆくのは、いつも素子だった。伸子は、蜂谷のいうことのうちに感じとられる真実と、そこにまじって現れている彼の傍観的な立場とを、だまって考えあわせるのだった。
「さあ、そろそろ、ひっこみましょうか」
 そう云って自分のかけていた椅子を部屋のなかへもちこむ素子に、つづいて椅子を運びながら蜂谷は、
「それにしても、あなたがたは、かわったもんだなあ」
と云った。素子は、そういう批評が不満足ではないらしく、その感情を、からかうような眼つきの中に示して、
「あなたはどうなんです」
 蜂谷は、それに答えなかった。素子に案内されて、向いの部屋へ去るとき、
「あなたがたが、ロンドンから帰って来たらいっぺん是非サン・ドニへ行って見ましょう」
 二人の女のどちらへともなく云った。
「あすこの市長は去年の選挙でドリオという共産党員になって、七月と十一月の革命記念日にはサン・ドニの市庁《オテル・ド・ウィユ》に赤旗があがりますよ」

 翌朝、伸子と素子とが起きたとき、蜂谷良作は、向いの室で、ちゃんと身仕度をすまして待っていた。朝のコーヒーを三人でのんで、蜂谷は帰って行った。伸子の手帳に彼のクラマールの住所を書きのこして。
 

    第二章

        一

 ロンドンにいた四十日の間に、ヨーロッパの夏が秋の季節にうつって行ったばかりでなく、伸子の身のまわりの事情もあれやこれやと変った。
 八月十三日の朝、アミアンの飛行場から飛びたった真白い旅客機は、二十四人の客をのせて、パリから北へとんで、カレーとドーヴァの間で英仏海峡を越した。海峡の上はひどい霧だった。気流もわるかった。真白い飛行機は灰色の濃い霧の渦の中で、エレヴェータァが三階から地階まで落ちるときのような気味わるい無抵抗さで沈み、次の瞬間には、同じ高さを浮き上った。ピッチングのひどいとき船にのっているよりも、はるかにわるかった。
 素子は伸子より早く酔いはじめて、青黄色い顔色になっては、そなえつけの紙袋に顔をつっこんだ。伸子の酔いかたは素子とちがって、ちっとも嘔気はなく、ただ頭が金のたが[#「たが」に傍点]でしめつけられるようになって、段々夢中になって行った。こわばって、きしんで、動かなくなったように感じられる眼玉で、伸子は、濃い霧のきれめから憂鬱な藍色に波だっ
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