B伸子たちが住んでいるヴォージラールの通りでは、二三日前からヴェルサイユ門の広場、コンヴァンシオンの角、パストゥールなどに次々に楽師のための舞台がつくられた。丸太の柱を緑の葉で飾られ、青と赤の色電球をつましく一条二条交叉した市民の祭日のための舞台では、十四日のひるごろからそろそろヴァイオリンやフリュートの音がきこえはじめて、夜が更けるにつれ全市に祭の気分が漲った。
 伸子と素子とが、九時ごろメトロにのってひとまわりして見ると、車内には陽気な尖り帽をかぶった若い男女のひとむれがいて、ピピーと鳴りながら色紙細工の象の鼻がのびるおもちゃ[#「おもちゃ」に傍点]でふざけあいながらどこかへのし出して行くところだった。レモン色に塗られた、明るい車内にこんでいる乗客たちは、祭りの夜らしい賑やかさが、メトロの中にもあることに異存はないという風で、おとなしくにこつきながら眺めているほろよいの年寄の顔も目についた。
 パストゥールでメトロをおりて広場へ出ると踊りの輪はひろがり、熱狂を加えていて、踊る男女の群が街上にあふれた。踊らない伸子と素子とは、音楽とともに絶えずゆれ動いている群集のうしろでしばらく見物しては、ぞろぞろ流れる人どおりにまじりながら、ヴェルサイユ門に向って歩いた。凱旋門附近のブルヴァールとちがってパリのこのあたりは、街燈がまばらで、いつも街はくらい。暗い街上に、舞台の青や赤の紐電球が、むらな光を投げ、ヴァイオリン、セロ、ピアノなどで奏される旋律のこまかい急調子なフランス風の舞踏曲につれて、楽師の舞台に近い男女の群は、肩や横顔に動くにつれて場所のかわる色電燈をうけて踊って居り、すこし遠のいたところにいる群はうす黒くうごめく影を重ねあって、暗いなかで踊っている。どの踊の輪のまわりにも、夜目には見えないパリの場末町の街路のほこりがかきたてられて、風のない七月の夜気のなかにむんとするいきれが感じられるのだった。
 メーデーだの、革命記念日だのと、明るく歌声にみちたモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の祭日を見なれた伸子たちには、パリの場末の町のパリ祭の夜景は一種の哀愁をそそった。
 伸子と素子とは十二時すこし過にホテルへかえって来た。今夜は祭日だからだろう。表戸はひろく開かれたままで、電燈が煌々と白い石の板目に輝いている。伸子と素子とは人っ気のないホールを通りぬけて、エ
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