「蟹工船」を頂点とする見解がある。
しかしながら、「党生活者」「地区の人々」を熟読せよ。作品の具象化の点で部分的難点はあるが、同志小林によって最近執筆されたこの二篇の小説は、「蟹工船」時代の自然主義的手法の晦渋さ、その反撥として以後の諸作を貫いていたやや浮き上った平易さへの努力の跡を揚棄している。作者のレーニン的世界観の統一、政治的鍛練によって、自らそなわって来た独特の簡明さ、迫真力、革命的気宇の大さが、作品の深い光沢となってかがやき出そうとしている。主題の把握においても、敢然と多数者獲得の課題に応え得ている。
同志小林は「組織活動と創作活動の統一」の課題に対し身をもって「文学を党のもの」とし、最も高度なボルシェヴィキ的解答を与えたのである。
同志小林多喜二が創作の実践にあたって非常に理論を尊重したことは上述のとおりであるが、彼は、決して「理窟のいえない小説家」ではなかった。従来執筆された文学に関する感想、論文などは、レーニン的理論の展開に際し確固性において十分でなかったとはいえ、理論家としての素質を示していた。
去年四月の暴圧以来、文化・文学運動の切迫した情勢は同志小林に新た
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