をわが手で得てゆくことが女としてどんな努力を求められることか、それらのことがらをまじめに発見してゆく機会を与えられないと同時に、これっぽっちのサラリーなんだもの、そんなに馬鹿正直に働いていられない、という仕事に対する妙な要領のよさを身につける危険がある。つとめさきでのそういう心理は、決してそのビルディングを出たときその人たちの心からふるい落されるものではないと思う。いつかしら、心の髄へまでくいこんで、その人は自分の人生態度全体に、妙にはすかいになったような、要領よさでやってゆけそうに思いちがいをするようになって来る。それは非常に重大な不幸であると思う。
その上、人が不足してそのような広汎な女性の就職が生じているのだから、いやなところはやめても、すぐまた別のところへうつれることもあるかもしれない。働くところの条件がわるくて体を痛めても、もともと生活の必要からではない就職なら、すぐやめてその療養は親がしてくれるという安心もあるだろう。
婦人が職業をもって社会に生きてゆく事が、そのひとを強め高めるのは、その仕事を通じて女が社会でどう扱われているかという現実を飾りなく学び、自分の力をも客観
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