れば、むしろ女学校を出て、上の学校に入るのでもなく、勤めもせず、これまでのように家にいる、と申告することにかえって何かの決心を求められるような心理になって来ると思える。何のために家庭にのこるのか、その理由が自分にはっきりわからなくては安心されない心になると思う。
物事の推移は微妙で同時におそろしい力をもっている。それは、この一つの気持の変化についても見られるのではないだろうか。
若い娘さんたちが、女学校を出てからあてのない朝夕を、緊張するだけの熱意ももてないお稽古ごとに過しつつ結婚を待っているというような暮しをやめて、学校からの続きのようにそれぞれのふさわしい職業についてゆくことは、よろこばしいことだといえる。広汎に若い娘さんの職業への進出が常識となってゆけば、自然これまで職業婦人のめぐり会って来た一つの悲劇、男のひとたちは結婚の対手として職業についている娘さんをのぞまないということも変ってこざるを得ない。逆にその娘さんはどうしてずっと家ばかりにいたのだろうか、という質問が生じるようになるかも知れない。そして、男が兵役につくのを当然とされているように女の職業経験がそれに対応するもの
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