一生懸命に生活してゆきましょう、そういう挨拶を交しあわすと思う。たとえば近頃往来に出ている立看板の「簡素の中の美しさ」という言葉を、本当に生活のなかから湧きいでた女性の健やかな美感への成長として実感してゆくのも来年の事だし、こんなに炭の不足している一冬を、互に協力して体も丈夫に仕事も停滞させず過しぬいたという経験が、社会的な辛苦に対して女性をはっきり目ざませてゆくのも、いってみれば来年に予想される収穫の一つであろう。
 私たちが来年に対しておのずからもつ心持は、こうしてみるとずいぶん引き緊ったものだと思われる。何かましなことがありはしまいかしら、と落付きなく目を外へ向けてきょろつくよりも、ひとりでに背中を真直にし、膝頭に力を入れて歩道をも踏みつつ、来年はどんなことになってもおどろかず、ちゃんと暮して行こうとさらに自分への心をかためる、そんな気分におかれていると思う。
 世界史が変ろうとしている。そのことを今日感じていないひとはないだろう。そのように変ろうとしている世界史のなかで、世界の女性たちは、どんなに暮しているだろう。世界がただごちゃごちゃになったとばかり見てはいまい。さらによりよ
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