を見つけた。
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「あ! 階子! 階子がありますよ。
 これじゃもう此処から入ったとほか云えませんね。
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 皆は、杉の生垣に喰い込んで居る朽ちた様な階子を、触ったりガタガタ云わせたりした。
 けれ共、それは、何処のだか知って居るものは誰も居なかった。
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「どこんでしょうね、うちのは高い所に吊り上げてあるし、もっとずーっと長いしするから……
 おとなりんじゃあないでしょうか。
「そうかもしれない、
 あ、ほらね此処が此那に折れてるでしょう。
 向うから此方へ階子を下して、此れを足がかりにして登ったんです。
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 巡査は、垣根際の桃の木をさした。
 生れてこのかた、今日まで泥棒と云うものに入られた事のなかった私は、此那ことをして一々探索してあるく事が此上なく、面白かった。
 命に別状さえなく、彼那嫌な風付きにさえならないですむなら、たまには探偵も面白いだろうなどと思われた。
 第一の入口は斯様にして分ったけれ共、どこから家の中に入ったかと云う事が疑問であった。
 水口の所にやや暫く立ちどまって、しきりに戸を外から、押したり叩いたりして居た巡査は、急にさも満足したらしい、得意そうな声をあげて叫んだ。
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「漸《ようよ》う分りました。此処からです。此処から入ったんです。
 間違いなく此処です。
 そら、斯う鍵が掛って居ますねそれを斯う分けましょう。そして、錠を突あげると何でもなく明いてしまう。奴等あ何と云ったって、本職なんですからな。
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 それから彼は、靴を脱いで、台所中をすかしながら這い廻った。
 流し元と、女中部屋との間の板の間に、薄く泥のあとが付いて居るけれ共、それもぼんやりして何がどうだか分らないので、
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「此処いらを余程行ったり来たりした様ですなあ。
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と、血が集まって、真赤になった顔を苦しそうにあげた。
 用箪笥のあった奥の部屋へ行って見ると、二棹並べて置いてあった大箪笥の上の、こまかいものが皆下に下ろしてある。
 彼那大きなものを持ち出し、此処でも之丈の事をしたのに、どうして家の者の目が覚めなかったのか、
 どこかに禁厭がしてないかとか、ゆうべ誰かが干物を外へ出して置いたまんまだったの
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