トのイルミネーションを夜空に美しく燦めかせながら、一艘の遊覧船がゆるやかに東京湾に向って下って来た。道子たちが休んでいる河岸を通り過ぎる時には、白く塗られた甲板に並んでこっちを物珍しそうに眺めている浴衣姿や開襟シャツの船客たちの目鼻立ちまで手にとるように見える程、イルミネーションは明るかった。船は音楽をものせて進んで行くのである。道子は、わきに佇んでいる義兄に対して融け合えない気持が益々動かしがたく感じられるにつけ、啓三への愛着の高まる気持で、凝っと遠ざかる船の音楽に耳を傾けていた。



底本:「宮本百合子全集 第五巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年12月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第五巻」河出書房
   1951(昭和26)年5月発行
初出:「新女苑」
   1937(昭和12)年9月号
入力:柴田卓治
校正:原田頌子
2002年5月4日作成
2003年7月5日修正
青空文庫作成ファイル:
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