なものではないことが、少し分って来たのである。
 若し名をつけられるなら、それは、神という言葉の広義な場合が適当であろう。自分が、努力し、自分の力でその力のうちに、滲透して行きさえすれば、どこまでも拒むことなく入れてはくれる。けれども、自分が死ぬべきときがくれば、その同じ力は、自分を間違うこともなく、取りのけにもせずに死なせるだろう、自分がどんなに惨めらしい敗亡に陥っても、その同じ力は静かに、また次の来るものを迎えるほど、それほど、大きく、広いものであるらしいことを彼女は、感じたのである。
 そして、ごくごく微かだけれども、
「主与え給い、主奪い給いぬ、主の名に祝福あれや」
と云ったジョッブの心持と、
「主よ、汝の愛するもの病めり」
という文句のうちに籠っている心持とを感じられるような心持がした。
「主よ、汝の愛する者病めり……」



底本:「宮本百合子全集 第一巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年4月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第一巻」河出書房
   1951(昭和26)年6月発行
※底本297頁4行目の、※[#「毬」の「求」の代わりに「戍」]は、※[#「毬」の「求」の代わりに「戎」、第4水準2−78−11]の作字上の誤りが疑われる。
入力:柴田卓治
校正:原田頌子
2002年1月2日公開
2003年7月5日修正
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