尊女卑と云うならば、確に西洋の人間は、女尊男卑であると云えましょう。まして、米国人は、その点を、特に強調して伝えられていると思います。
 過去に於て中世の騎士気質《ナイトフッド》の伝統を受けている上に、彼等は冒険的な新生活に踏み込もうとするに当って、如何なる危険をも物ともせず随伴して来た女性に向っては、一層深い敬意を抱かせられました。信仰と希望とのみに頼って、勇ましく新天地に活動しようと云う、その雄々しい決心のみでさえ、男性を鼓舞するのに充分であったのに、いざ曠野での生活が始ってからは、勇ましい一人の人間として、頼らず怨まず自己の職分を尽して行く。あらゆる困窮の裡にあって、変らぬ助手とし、友とし、愛人として暖く男子の生涯を護った女性に、彼等祖先は、真個のノストラ・マーター(我等の母)の永遠性を感得せずにはいられなかったのです。まして、その時代には、移住した男子の数より遙に女性のそれは少なかったでしょう。
 それ故米国に於ける原始女性尊重の真意とでも云うべきものは、婦人を実力に於て認め、人格価値の上からは半歩も男子に譲るものではないと云う事実的な結論に加えて、彼等一流の光彩あるロマンティ
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