各人の内心に燃えていた。それは、遠い昔、政治的思想的に紛糾を重ねた欧州の故国を去って、未開の新土に生活を創始しようと覚悟した程のものは、皆、何等かの意味に於て、強い箇人の自覚と、何物にも屈しない独立心を備えていたからなのです。
アメリカと云っても、往古の状態は、決して今日我々の知識にある米国ではありませんでしたろう。今はもう人数も減り、圧迫されて仕舞ったアメリカン・インディアンが到る処に生活していました。畑と云う畑もなく、都市と云う都市もない。フランス、スペイン等の各国が、おのおの土地開拓に努力している。
まるで、私共が、急にアフリカの真中にでも移住したように、絶えず生命の危険に脅かされ、自分の手一つの力で衣食住の要求を充たして行かなければならない場合、人は怯懦《きょうだ》でいられましょうか、他人により縋っていられましょうか。
日本のように温和な自然に取囲まれ、海には魚介が満ち、山には木の実が熟し、地は蒔き刈りとるに適した場所に生きては、あの草茫々として一望限りもない大曠野の嵐や、果もない森林と、半年もの晴天に照りつけられる南方沙漠の生活とは、夢にも入るまいと思われます。恐ろしく狂暴な自然に抗しながら、健気《けなげ》に良人を扶けて、家を守り、殆ど生命を賭して子を育てる女性に対して、如何なる男性が侮蔑の声を発せられましょう。
一朝、野蛮人の襲撃に会えば、彼等は、只、彼等の団結によってのみその敵を防がなければならない。一都市の政治的、商業的問題を本国と取定める場合には、誰か、彼等の信任する一人を、あらゆる舌、あらゆる心の代表として選出しなければならない。共和政体は、合衆国が独立を宣言するより以前から、その胚種を持っていたのではないでしょうか。
困難に困難を忍びながらも、腕さえあればこれだけの収穫は見出せる! 幾エーカーと云う耕地に、小山の如く積みあげられた小麦の穂を眺めて、彼等は思わず誇りに胸を叩いたでしょう、その心持は察せられます。今日、彼等の社会を風靡していると云われる物質主義、精力主義、並に実利主義は、未開の而も生産力の尽くるところを知らない自然に向って、祖先が、本能的に刺戟された一方面の発育であると云えるのではありませんでしょうか。
源泉は遠い遠い彼方迄|遡《さかのぼ》る、深い真実な人間生活、圏境の裡から湧き出している、それ故、まるで過去の歴史と、開
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