を、無頓着らしく冷笑する事は冒涜である。人類の真実な希願を蹂躙する者は、其の同じ足で、自分の生命を踏み躙っているのだ。
私どもは屡々、自分等の足りなさから、失敗しているのは悲しむべき事実である。今、私共が見ずにはいられない事実であるけれども、私共は、失敗《フェイル》した今日の現象と、其の背後に潜んでいる希願との、恒久性の差を、明かに見て進まなければ成らないのではあるまいか。世界が趨《おもむ》こうとしている方向は、決して幻想郷ではない。人類の意向は、酔狂ではないのだ。
皆が友と成らなければ成らない。皆が互に、互の献物を大切に仕合ってと[#「と」に「ママ」の注記]運ぶべき処が在るのでは無いだろうか、私共の生活を透して、相互に理解し、心から協力し合える範囲が、若し所謂人情の領域にのみ限られているものとしたら、各自の生活は、余り寂しいものである。
[#地付き]〔一九二〇年一月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「読売新聞」
1920(大正9)年1月1日号
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