断想
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)趨《おもむ》こう

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九二〇年一月〕
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 人類が、生命の本然によりて掛ける祈願の前に、私共は謙譲であり、愛に満ちてありたい。
 あらゆる悲惨の彼方へ、あらゆる不正と、邪悪との彼方へ! 其れは利己的な、一寸法師の「我」が探求する事なのではないのだ、と想う。お互の魂の純真な憧憬を尊ばなければ成らない。或る人が、嘗て抱いていた希望を破壊されたからと云って、希望其ものの本質まで否定する事は許されない。
 幸福と云う事、真実な正義と云う事に就て、私共は何《ど》の点からも誤たない理解を持っているだろうか。真の幸福や正義が、瞬間的な、或いは詐偽的な目前の方便で支配され、されるべきものだと思っている事は、恐ろしいと思う。
 如何ほど聖純な祈願も、祈願する者は、私共である。外の何物でもない。そして又、其祈願が如何程失墜したとしても結局は、其祈願を捧げる私共の中に墜ちて来るのでは無いだろうか。
 よきものが或場合受けなければ成らない屈辱や、苦難や
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