思い、喜ばれて居る事で他の人に云うには惜しい事だと云う様な心持になって、つい誰にも母にさえも話さなかった事である。

 叔父の寝台の傍で聞いた宗教的な種々の話は実に沢山であった。
 アダム、イブの話。
 ノアの箱舟。
 クリストの子供の時の話。
 Babel の塔。
 其の他種々の話を、彼は我々が日常の出来事に対して云う通りな静かな事実を有りのまま物語って居る様な口調で話した。
 子供にお噺だと云う感じを一寸も持たせなかった程、真面目に深重な様子であったので、私は彼の言葉のままに世界を作り無花果を食べ、大きな石を積み上げ様とする人民になりすまして居た。
 そして、まるで心をその事々に奪われた様になって、枕をかついで、
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「あー高くなったねえ、
 今度は何か上げ様、
 石かえ、
 聞えませんよそいじゃあ駄目だ。
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等と叫んだり、自分が蛇になって二人の弟のアダムとイブに、
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「貴女そりゃあ美味しいのよ、
 おあがりなさい。
 神様がけちんぼうだから食べるなっておっしゃるのよ。
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等と云うので母に心配
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