か。
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とぼやけた声で云った。
「おようさん」と云うのは叔父の妹で真に好い人であったが若くて死んだ人である。
此の叔母ちゃんに就ても私は種々な思い出を持って居る。
けれ共、じきに叔父は私だと云うのを知って、大変によろこんで呉れた。
雨が降るから来まいと思って居たのに大変強い児だとか、左様云う心を持って居るとどうだとか種々云いながら、私の気の毒そうに出した泥団子の様なリンゴを見ると、いきなりそれを握って、
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「有難う、
ほんとにありがとうよ。
何よりも嬉しい。
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と云って、いつもの様に目を上に向けてお祈りを仕始めた。
だまって傍に立ってそれを見て居た私は、何とも云えない感情が胸一杯に湧き上って、大声を上げて泣きたくて泣きたくて、どうにも堪えられない心持にさせられて居た。
彼の時の息がつまる様な胸が痛い様な苦しい感じは今でも私の心にはっきり戻って来る事がある。
私は喜ばれて嬉しかった。
けれ共泥リンゴが何故その様に好い物であるかは分らなかった。
私は種々考えたし聞きたいとも思ったが、この事は只自分丈の
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